絶版文庫書誌集成

中公文庫 【さ】


西園寺 公望著・国木田 独歩編 (さいおんじきんもち・くにきだどっぽ)
「陶庵随筆」
(とうあんずいひつ)


*カバー絵・川村文鳳筆 「京名所十五景図の内 ── 平野」観瀾堂旧蔵
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*138頁 / 発行 1990年

*カバー文
洋服での参内を論争した「大原三位と切腹を賭す」、ビスマルクとの雑談の思い出を綴った「微公の伯林会議談」など、国木田独歩が「一の立派なる文学上の産物」と激賞した表題作の他、小御所会議や戊辰戦争など幕末維新を回顧した「懐旧談」を収載。鴎外・荷風ら当代知名の文士がつどった。“雨声会”を主宰した、文人元老の珠宝の自伝エセー。

*目次
陶庵随筆
 ガムベッタの理想国 / 大院君の一国の骨髄 / アコラス翁の政治家 / 中島?隠の耕講 / 大原三位と切腹を賭す / 西園寺の風呂屋談 / 唯一事を欠く / 微公の伯林会議談 / 外務大臣の待合室 / 水戸斉昭の贈りし瓢 / 邦人某巴黎(パリ)に胸壁を築く / 仏の大統領ビスマルク公の賄賂を受く / 紅蘭女史に一本まいらる / 火は木を焼く / 日本料理 / 秘事は旨きものなり / 演説に喝采を得るの秘訣 / 如何なるこれ風流 / 五百年後、再来救世 / 人情の愚一にここに至るか / 香山山谷の奴隷 / 先生は如何
懐旧談
 (一)〜(五)
陶庵侯に就て 編者 国木田独歩
 『陶庵随筆』を読んで 細川護貞


西條 八十 (さいじょうやそ)
「女妖記」
(じょようき)


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*284頁 / 発行 2008年
*カバー画・山本タカト 「おまえに接吻するよ。ヨカナーン」 / カバーデザイン・平面惑星

*カバー文
出逢った女性たちとの遍歴を描いた知られざる自伝的小説集。女掏摸、虚言癖、金髪美人など様々な“女妖” ―― 魔性の妖気に翻弄され、惹かれていく自らの不条理な心理を艶やかな文体で回想する。永井荷風、竹久夢二、中山晋平、生方敏郎、嶋中雄作などの知友も登場、昭和初期の風俗を活写する。半世紀を経ての復刊・初文庫化。

*目次
今子と言う娘 / 十一号室の女 / 登山電車の女 / 桔梗の話 / 李姿鏡 / 水戸の狂女 / 黒縮緬の女 / 墨東の女 / 枕さがし / ネルケの花 / 復讎 / あとがき / 解題・解説 高橋洋一


三枝 博音 (さえぐさひろと)
「日本の思想文化」 
(にほんのしそうぶんか)


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*289頁 / 発行 昭和53年

*カバー文
三浦梅園、貝原益軒、安藤昌益、海保青陵、宮崎安貞らの、自然哲学、宗教思想、経済論など多方面にわたる日本の思想文化をとりあげ、その固有の特質と思想性を実証的に解明して、世界の中の日本文化を意義づける。

*目次
 序
 増補改訂版の序
序論
 一 「日本的なもの」について / 二 「世界に誇るべき」日本の文化
第一章 日本文化の特質
 一 自然に親しむ民族 / 二 一つの例 ― 俳句について / 三 更に一つの例 ― 南画の論理について / 四 日本文化の特質
第二章 日本文化と思想性
 一 思想性の分析 / 二 わが古典の思想性 / 三 思想の日本的とドイツ的
第三章 日本の知的文化
 一 知の日本的性格 / 二 日本人の論理的訓練 / 三 論理思想の誕生(三浦梅園)
第四章 日本人の自然解釈
 一 わが国自然哲学の曙光 / 二 日本における自然主義 / 三 わが国における自然解釈の歴史
第五章 日本仏教とその思想
 一 仏教の私知的性格 / 二 仏教の遺産とその論理化 / 三 最澄論 / 四 仏教の日本化と源信
第六章 日本儒教とその思想
 一 日本思想史と儒教 / 二 日本の市民社会的思想化 / 三 思想家貝原益軒について / 四 安藤昌益の医学
第七章 神道と宗教論の問題
 一 神道の歴史的形態と本質 / 二 宗教論前史
第八章 易について
 一 「易」と科学性 / 二 「易」とわが近世思想
第九章 経済論その他
 一 経済論史における海保青陵 / 二 農学の鼻祖としての宮崎安貞
 補注
 解説 飯田賢一


斎藤 栄 (さいとうさかえ)
「黒水晶物語 ― 昭和囲碁風雲録」
(くろすいしょうものがたり)


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*386頁
*発行 1994年
*カバーイラスト・加藤孝雄 / デザイン・フレット

*カバー文
碁の天才児山岡慎太郎は、亡き父のライバル城所に勝て、と母から命じられる。だが、彼は城所の娘を愛してしまい、それを知った母は、父の死にまつわる衝撃的な話を打ち明ける……
大きな謎を背負い、城所との五番勝負に臨むまでの天才棋士の波瀾の青春を、終戦に至るまでの激動の昭和史を背景に描いた、異色のサスペンス長篇。

*解説頁・影山壮一

講談社文庫版(サイト内リンク)


斎藤 茂太 (さいとうしげた)
「茂吉の周辺」 
(もきちのしゅうへん)


*カバー画・斎藤茂吉
 カバーデザイン・斎藤恵子
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*266頁 / 発行 1987年

*カバー文
ヨーロッパに父斎藤茂吉の足跡を求めて辿る懐しい旅の話、幼い日の記憶、日常のこと、趣味の飛行機についてなど、身辺のさまざまを達意の文章で描く名エッセイ集。

*目次
チェヘービンゲンにて / ドナウエシンゲンにて / 蕨 / ブタペシュト / 松杉会 / 寝タバコ
 ・
歌碑 / 最上源流行 / 精神病の湯 / 出羽三山 / 北国の秋
 ・
青山墓地 / 脳病院長斎藤茂吉 / ぶっつぶシェー / スラヴィク教授 / 布野村墓参記 / 長崎 / 白田舎 / 金山平三画伯 / キツツキ / 新井大尉の靴下 / ヘビの夢
 ・
青南学校 / 青南小学校界隈 / 青山通り界隈 / ベッヒシュタイン / 狂った一頁 / コトバ / タマゴの花 / 京都岩倉と南禅寺
 ・
虚空小吟 / 黄色いふね / 雷電 / ジャンボ初乗りの記 / 出会いと別れ / オフクロ / お守り / イルクーツクにて / 出羽嶽とワイマール
 あとがき
  初出一覧
 文庫版のためのあとがき


斉藤 孝 (さいとうたかし)
「スペイン戦争 
ファシズムと人民戦線」 (すぺいんせんそう)


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*226頁 / 発行 1989年

*カバー画 GUERNICA,1937 by PABLO PICASSO 1989 SPADEM Paris

*カバー文
一九三〇年代、王制を倒して成立したスペイン第二共和国は、独伊の支援を受けたフランコ軍との二年半にわたる戦いののち、ついえ去った。二つの大戦間に起こった悲劇を歴史的教訓として生き生きと再現する。

*目次
 まえがき
T 王冠の没落
U 三色旗の下で
V 暗い二年間
W 三色旗と赤旗
X 反乱の開始
Y ロンドンの喜劇
Z マドリードの抵抗
[ もう一つの内戦
\ 戦争の終末
 あとがき―参考文献解説にかえて
 〈スペイン戦争年表〉
 解説 深澤安博


佐伯 彰一 (さえきしょういち)
「近代日本の自伝」 
(きんだいにほんのじでん)


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*358頁 / 発行 1990年

*カバー文
伊藤博文・尾崎三良・前島密・片山潜…。みずから記した数々の「私語り」のうちに、西欧に直面した近代日本人の自我意識がおのずと浮かび上がる。文学の魅力ある一ジャンルとして自伝の醍醐味を存分に味わいつつみちびかれる、画期的日本人論。

*目次
第1章 私語りのリアリティ ― 明治初期の群像
第2章 実の人の遍歴 ― 深井英五と徳富蘇峰
第3章 神のイメージ ― 島崎藤村の背教
第4章 欧化主義者の悲哀 ― 青木周蔵と森鴎外
第5章 私語りの想像力 ― 木戸孝允との出会い
第6章 ピカレスクの時代 ― 若き日の伊藤博文
第7章 棄て子・ピカロの青春 ― 尾崎三良
第8章 実の人の「漂遊」 ― 前島密
第9章 女語りの二重性 ― 福田英子
第10章 懴悔という意味 ― 自伝における西洋と東洋
第11章 ルソーと白石の間 ― 二葉亭四迷
第12章 革命家の栄光と悲惨 ― 片山潜と木下尚江


佐伯 彰一 (さえきしょういち)
「神道のこころ見えざる神を索めて」 
(しんとうのこころ)


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*287頁 / 発行 1992年
*カバー・立山曼荼羅 四幅一対 江戸時代末期(佐伯彰一氏蔵)

*カバー文
戦前戦中の国家意志に利用され、軍国主義推進に大きな役割を果たした神道。いく多の歴史的変転、伝来の宗教の影響に滅びかけながら、日本固有の民族信仰として不思議な生命力を持ちつづける神道の基本的性格と在り方を、日本文学史の名作群の底流を据え直すことによって解明してゆく。

*目次
 はしがき
1 神道と私
  一 神道敵役説を排す / 二 日本人を支えるもの
2 神道と日本文学
  三 原質、原型への眼ざし / 四 『源氏物語』の神話感覚 / 五 『源氏』における宗教状況 / 六 鎮魂歌としての『平家物語』 / 七 『和布刈』というドラマ / 八 志賀直哉の神道的感受性 / 九 神なき神秘主義 / 十 尾崎一雄の神道回帰
3 折にふれて
  十一 新宗教の時代 / 十二 アンチ神道派に与う / 十三 神道復興のために / 十四 芭蕉と神道 / 十五 死者たちとの連帯 / 十六 お正月の思い出
 文庫版あとがき


佐伯 彰一 (さえきしょういち)
「伝記のなかのエロス : 奇人・変人・性的人間」
(でんきのなかのえろす)


*カバー・鈴木正道
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*283頁 / 発行 1994年

*カバー文
伝記、自伝好きはいまや“わが病い”と、古今東西の人物評伝に精通した著者が、その独特の面白さを鮮やかに描く奇人たちの伝記的エッセイ。真実なのか事実なのか、赤裸な私生活を書き残した人々、しかし「エロス的人間をふくみこんだ公私一貫した全体像は、まだこれからの課題である」と。

*目次
ジェイムズ・ボズウェル 伝記作者のエロス
エドワード・ギボン 大著述家のまっとうすぎる一生
チャールズ・ダーウィン 天才の偶然
H.G.ウェルズ 自伝に隠されたエロス
ハロルド・ニコルソン夫妻 英国上流家庭夫婦
ウォード・スミス 性のサクセス・ストーリーを書いた男
ホーマー・リー 日米戦争の予言者
 ※
福沢諭吉 『福翁自伝』の陰影
志賀重昴 時流をこえるナショナリスト
提督井上成美 アンチ・ヒーローの栄光
 ※
《メモワールの愉しみ》
 異物としての過去
 思想モダニストの変転
 畸人としての数学者
 先駆者の栄光と悲哀
 ※
江戸人のセルフ・イメージ
 あとがき
 文庫版あとがき


佐伯 彰一 (さえきしょういち)
「評伝 三島由紀夫」
 (ひょうでんみしまゆきお)


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*447頁 / 発行 1988年

*カバー文
三島由紀夫の死は社会的行動やその作品から予感されながら、いまなお謎のままである。驚きと衝撃が駆け抜けたあの日、一九七〇年一一月二五日の記録と三島文学の神秘を鎮魂の思いこめて追想する。

*目次
第一部 一九七〇年、事件としての三島由紀夫
 一 眼の人の遍歴
 二 時評的フラグメント
  (一) 一九七〇年六月
  (二) 一九七〇年八月
  (三) 一九七〇年十一月二十五日
  (四) 一九七〇年十二月
  (五) 一九七一年一月
 三 仮面の告白者
第二部 追想のなかの三島由紀夫
 一 二つの遺作
 二 伝記と評伝
 三 三島由紀夫以前
第三部 国際化時代のヒーロー
 一 国際性と回帰
 二 アメリカにおける『春の雪』
 三 三島由紀夫という謎
 四 三島由紀夫における西欧と日本
 五 先取りする作家の「私」
 六 三島由紀夫における神話
  文庫版あとがき


佐伯 彰一 (さえきしょういち)
「物語芸術論 ― 谷崎・芥川・三島」
(ものがたりげいじゅつろん)


*カバー画・「ボンベイ模様」
(大正四年刊、沢田誠一郎編『世界文様集』より)
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*304頁 / 発行 1993年

*カバー文
「語り」の小説論、文学論という基本テーマに注目してきた著者は、「物語」は「語り」に他ならない、「語り」こそ「小説としての説得力の源、生命力の証しではないのか」と主張する。小説における「語り」のあり方と作者との関係を、谷崎、芥川、三島のそれぞれの作品から浮彫りにした力作長篇エッセイ。

*目次
物語のなかの「私」
聖なる狂気 芥川龍之介 T
隠された母 芥川龍之介 U
物語を支えるもの 三島由紀夫
「生き方総体」 谷崎潤一郎 T
第二の語り手の誕生 谷崎潤一郎 U
語りの戦略と成熟 谷崎潤一郎 V
開かれた小説 谷崎潤一郎 W
語りによる小説論
 あとがき
 文庫版に際して


早乙女 貢 (さおとめみつぐ)
「新門辰五郎伝」
(しんもんたつごろうでん)


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*302頁
*発行 1998年
*カバー画、本文カット・早乙女貢

*カバー文
江戸の飾り職人の子に生まれた辰五郎は、その持ち前の侠気と度胸で、火消人足から町火消十番組の頭となり、喧嘩の仲裁等で名を売る。しかし、久留米藩の有馬火消と大乱闘を演じ、ついに佃島の人足寄場送りとなる…。一介の町火消から将軍慶喜の纏持となった、江戸の侠客の一代記。 文庫オリジナル

*解説頁・高橋千劔破


酒井 潔 (さかいきよし)
「日本歓楽郷案内」
(にほんかんらくきょうあんない)


*カバーデザイン・柴田淳デザイン室
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*314頁 / 発行 2014年

*カバー文
『エロエロ草紙』で注目を集める著者による昭和初期の東京・大阪・横浜・神戸の色街探訪。ステッキ・ガールの手口、結婚媒介所の罠、大阪風俗の巧みな色仕掛けなど、関東大震災を経て近代化の波にのって増殖する新手のユニークな風俗の実態とカフェーやダンス・ホールでの男女の駆け引きを活写する。八十年の時空を超えて初文庫化。

*目次
第一編 東京歓楽郷案内
 第一章 銀座風景
  プロローグ / ネオンサインに輝く夜の銀座 / 銀座のモダン・ガール / ストリート・ガールA子 / 不良マダムH子 / ステッキ・ガールD子 / 魔の家に出入する女 / 将来の銀座
 第二章 夜の浅草
  車夫の導く怪しき家 / 貞操と十銭銅貨 / レヴューの楽屋裏覗き / 吉原夜話
 第三章 エロの山手
  伸び行く新宿 / 寂れて行く神楽坂
 第四章 結婚媒介
 第五章 二つの年中行事
  両国の川開き / お会式綺談
 第六章 ダンサーの流すエロ
 第七章 ランデ・ヴー
 第八章 花街秘話
 第九章 魔窟街

第二編 大阪歓楽郷案内
 第一章 道頓堀 / 第二章 道頓堀の劇場 / 第三章 芝居茶屋と裏表 / 第四章 道頓堀のエロ女給 / 第五章 色町の灯 / 第六章 上方名物やとな / 第七章 宝塚行遊記 / 第八章 大阪私娼記

第三編 横浜歓楽郷案内
 ハマの遊び場 / 本牧ガール / 本牧に降る金 / 横浜山之手風景 / 海辺のエロ風景

第四編 神戸歓楽郷案内
 波止場附近のガイド / 港街の仙境 / 神戸のバラケツ / 日曜日の恋と登山
神戸の明暗近代色
 上筒井の巻 / 朝鮮ガール / 三の宮の巻 / 南京街のエロ風景 / ブルジョア愚連隊 / キングの巻 / 宝塚会館の巻 / 杭瀬の巻
  解説 下川政史


酒井 三郎 (さかいさぶろう)
「昭和研究会 : ある知識人集団の軌跡」
(しょうわけんきゅうかい)


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*368頁 / 発行 1992年

*カバー文
日中戦争 ―― 第二次大戦への軍部独走に懸念を抱き、混迷からの脱出を誰もが求め始めていたなか、近衛のブレーントラストと目された国策研究機関・昭和研究会は誕生した。政治家、実業家、革新的学者等、知識人たちが、日本がどうあるべきかと近衛の新体制運動に活路を見出すべく心を燃やした激論の記録。

*目次
第一章 昭和研究会の誕生
第二章 主宰者後藤隆之助
第三章 昭和研究会の新しい展開
第四章 第一次近衛内閣と支那事変の勃発
第五章 支那事変の拡大と内閣大改造
第六章 昭和研究会の国策研究(一) ― 政治・経済問題
第七章 昭和研究会の国策研究(二) ― 文化・教育問題
第八章 昭和研究会の関係団体
第九章 三国同盟と昭和研究会
第十章 新体制運動と昭和研究会
第十一章 近衛公と日米交渉
第十二章 太平洋戦争
第十三章 戦後 ― 近衛公の最期など
結語 ― 昭和研究会の悲劇
昭和史の激流のなかで 対談 後藤隆之助/酒井三郎
 文庫版あとがき
 人名索引
 解説 伊藤隆


堺 誠一郎 (さかいせいいちろう)
「キナバルの民 ― 北ボルネオ紀行」
 (きなばるのたみ)


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*140頁
*発行 昭和52年
*カバー・清水登之

*カバー文
北ボルネオに聳える高峰キナバルの山容は、大戦末期の惨状を想うとき、いっそう奇怪である。
しかしその直前、ドゥスン族たちの秘境をたずね歩いた、この詩情ゆたかな記録が生まれている。

*解説頁・『キナバルの民』の作者のこと 井伏鱒二


堺 利彦 (さかいとしひこ)
「堺利彦伝」
 (さかいとしひこでん)


*カバー画・小川芋銭
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*226頁 / 発行 昭和53年

*カバー文
私は草創期における社会主義の先駆者の中では堺利彦先生が一番すぐれていたと思うけれど、人間としての面白さから言えば、社会主義者という一定の型にはまった堺利彦よりも、人生の紆余曲折を経て時代の変遷と趨勢に眼が開けて行く過程の方が、自由でスッ裸かで在るがままの生活記録として一層興味がある。社会主義者となるまでの自伝『堺利彦伝』は、正に興味津々だ。
 荒畑寒村

*目次
 序
第一期 豊津時代(上)
第二期 豊津時代(下)
第三期 東京学生時代
第四期 大阪時代(上)
第五期 大阪時代(下)
第四期 二度目の東京時代
第五期 福岡時代
第六期 毛利家編輯時代
 先師のおもかげ 荒畑寒村


坂本 太郎 (さかもとたろう)
「歴史随想 菅公と酒」 
(れきしずいそう かんこうとさけ)


*カバー・国宝『北野天神縁起』
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*252頁 / 発行 昭和57年

*カバー文
菅原道真の伝記の一節にある、「性酒を嗜まず」に注目し、その真相をさぐる表題随想「菅公と酒」をはじめ、「国つくり」「美人」他の研究余滴や、恩師先輩の思い出などを綴りながら、歴史と歴史教育への新たな視点を展開する。

*目次
 まえがき
研究余滴
 菅公と酒 / 歴史と国民性とへの反省 / 辞令 / 古事記の『御年』 / 菅原道真と遣唐使 / お国自慢 / 国つくり / 名まえの読み方 / 新しい日本の史風への反省 / 美人 / 基本 / 風土記随想 / 日本書紀と史実

恩師と先輩
 黒板勝美博士を悼む / 大学における黒板勝美博士 / 辻善之助先生を悼む / 栗田元次先生のこと / 相田二郎氏と「日本の古文書」 / 藤田亮策氏を偲ぶ / 津田左右吉博士の人と業績

歴史教育
 歴史教育私観 / 今日の歴史 / おもしろい歴史おもしろくない歴史 / 歴史の平衡作用 / 社会科歴史の問題 / むかしの勤務評定 / 学習指導要領 / 新教育

身辺時事
 愛書の精神 / 脚の力 / 方言 / 手習い / 丑年にちなんで / ことばは魔物 / 停年退職 / 帽子 / 法隆寺夏季大学 / 二重生活 / 祝日と正月 / 名をすてて

紀行
 城と人と / 霊泉寺と下諏訪 / 旅二題 / 欧州の古文書館 / 新しもの好き
 文庫版あとがき


佐木 隆三 (さきりゅうぞう)
「波に夕陽の影もなく ― 海軍少佐竹内十次郎の生涯」 (なみにゆうひのかげもなく)


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*298頁 / 発行 昭和58年
*カバー・辰已四郎

*カバー文
明治37年、海軍少佐竹内十次郎は、時価28億円の軍艦購入費とともに、任地イギリスから消えた。海軍主計学校を主席で卒業したこの男の謎につつまれた行動は、いったい何であったか。イギリスとカナダにその足跡と事件の真相を追った力作長篇

*解説頁・兼川晋


佐々木 祝雄 (ささきときお)
「三十八度線」
 (さんじゅうはちどせん)


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*207頁 / 発行 昭和58年

*カバー文
朝鮮北部の製錬の街・文坪(ぶんびょう)地区にあった日本人たちの引揚記。
敗戦の混乱と危険の直下での残留就労、酷寒零下20度の越冬、脱走、引揚げ ― 大勢の人の国境を越えた人間愛に支えられながら。

*目次
第一章 朝鮮北部の終戦悲劇
第二章 ソ連軍進駐
第三章 ソ連軍の立退き命令
第四章 労働者の苦悶
第五章 酷寒零下三十度の死闘
第六章 妻の出産と異国の春
第七章 最後の日本人労働者
第八章 元山収容所を脱出
第九章 東海北部線の哀話
第十章 三十八度線に挑む
第十一章 引揚船 興安丸
 あとがき
 文庫版の末に 佐々木孝子


笹沢 左保 (ささざわさほ)
「木枯し紋次郎 中山道を往く」 上下
 (こがらしもんじろうなかせんどうをゆく)




*カバー装画・小林秀美
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*上345頁・下309頁 / 発行 昭和58年

*カバー文

破れ合羽に破れ笠、錆朱色の長脇差さして、唇に五寸の長楊枝、木枯しの音も寒々と、中山道に孤影をひいて、独り旅往く紋次郎。不朽の名作木枯し紋次郎街道シリーズ第一篇。

木枯しの音を道連れに、中山道を足まかせ、宿場に巣喰う悪人たちに、独り敢然と立ち向う、行く手は白刃の修羅の中 ― 孤高の一匹狼、木枯し紋次郎の街道シリーズ第二篇。

*目次

虚空に賭けた賽一つ
駆入寺に道は果てた
鬼が一匹関わった
流れ舟は帰らず
雪燈籠に血が燃えた
命は一度捨てるもの
白刃を縛る五日の掟
 中山道略図(その一)

一里塚に風を断つ
暁の追分に立つ
冥土の花嫁を討て
明日も無宿の次男坊
四つの峠に日が沈む
鴉が三羽の身代金
 中山道略図(その二)


笹沢 左保 (ささざわさほ)
「私説 国定忠治」
 (しせつくにさだちゅうじ)


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*255頁
*発行 昭和55年
*カバー・三井永一

*カバー文
股旅物に新分野を拓いて颯爽たる著者が、綿密な史料考証と取材にもとづいて、一代の侠客の生立ちから上州大戸の刑場に果てるまでを探る。虚像を打ち払い、やくざ忠治の素顔を追った特異な忠治伝。

*解説頁・萩原進


佐多 稲子 (さたいねこ)
「あとや先き」
(あとやさき)


*カバーデザイン・菊地信義
(画像はクリックで拡大します)

*252頁 / 発行 1999年

*カバー文
静かに自らを見つめる「老いの新年」、風雪の時代を共に生きた中野重治・原泉、草野心平など、先に逝った友への追憶を綴る名随筆十四篇と、心の通い合いを伝える書簡七十九通。逝った友への深い想いを伝える、作家の白鳥の歌。

*目次
 T
老いの新年 / 正月に思う / 原泉さん追憶 / 今年の信州追分 / あとや先き / 中野重治・原泉のこと
 U
中野重治への手紙 / 中野重治への手紙について / 中野重治への手紙をめぐって / 中野重治への戦後の手紙
 V
中野鈴子への手紙 / インタビュー 戦後の日々と鈴子のこと
 W
私の中の「ふるさと」 / 池野巌さんの装幀 / 草野心平さんを憶う / 『私の東京地図』のこと / 「女性作家十三人展」のこと / プラハ、カレル橋 / 浴衣 / 銀座のこと
 付 窪川健造


佐多 稲子 (さたいなこ)
「年譜の行間」 (ねんぷのぎょうかん)


*カバー・池野巌
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*283頁 / 発行 昭和61年

*カバー文
出生の事情から、作家佐多稲子として出発するまでのすべてをありのままに語る、半生の記。悩み迷いつつも、真摯に人生を生きる作家の感動の自伝。

*目次
一 長崎での幼い日々
  若い父と母 ヨイオクサンニナルヨウニ…母の遺言 新しい継母(はは) 初恋のお話 子供の世界 長崎子ども風土記
二 キャラメル工場で
  祖父佐田秀実 キャラメル工場 一皿のシューマイ 小間使いになる 相生での暮しと『素足の娘』 叔父の死
三 本が読みたい
  祖母タカのこと 姉妹のような継母ヨツ 文学少女のお座敷女中 本が読みたい 丸善洋品部の定員 働くことに疲れた
四 結婚、心中未遂、破局
  投稿は佳作 自由が欲しい 縁談と結婚 自殺未遂
五 『驢馬』の人々との出会い
  生きていこう、働こう 『驢馬』の人たち 本当の青春、新しい生活 家に置いてきた子へ 室生犀星さん
六 プロレタリア作家として
  芥川龍之介さん 社会への目をひらく 女優になりそこなった話 「キャラメル工場から」 堀辰雄さん プロレタリア作家としての活動
七 弾圧に抵抗して
  文壇に登場 辛い一年間 窪川さんの甘え 留置三十八日間、起訴 面会に来た子どもたち
八 妻の立場と私の仕事と
  妻として、作家として 女性問題 「くれない」 加害者か被害者か
九 窪川から佐多に
  田村俊子の帰国 一人で裁判所に 「それが俺の口から言えるか」 情なさと恨めしさ 戦争は人間を悪くする 筆名佐多稲子
 あとがき
 佐多稲子年譜



佐多 芳郎 (さたよしろう)
「風霜の中で ― 私の絵筆日記」
(ふうそうのなかで)


*カバー画・佐多芳郎
(画像はクリックで拡大します)

*420頁 / 発行 1996年

*カバー文
気品溢れる歴史画の第一人者として活躍を続ける著者が「自分の道をコツコツと歩き続けるほかはない」と、病床で過すことの多かった半生を振り返りつつ大作絵巻『風と人と』完成までを克明に記す。恩師安田靫彦との出会いと絵巻模写を学んだ日々、大佛次郎、山本周五郎など多くの作家達との心なごむ交流を偲ぶ自伝随筆。
挿画十一点入。

*目次
麹町で生まれる / 大正天皇御大葬前後 / 母「鶴」に因んで / 私と三浦の海 / 絵との縁 / 父との旅 / 明舟町と大倉集古館 / 芝西久保巴町 / 歌舞伎 / 小学校から中学へ / 二・二六事件 / 貴重な体験 / 絵巻の模写 / 一土会 / 第二次大戦の経験 / 下絵拾遺抄切れ / 伴大納言絵巻 / 病中に見た不思議な夢 / 軍隊生活 / 左手の指 / 「火燿会」の看板 / 私の一人旅 / 院展出品 / 日本画と私 / 大佛次郎先生との出会い / 大佛先生との取材の旅 / 山本周五郎さん / 中山義秀さん / 円地文子さん / 海音寺潮五郎さん / 武原はんさん / 杉本苑子さんと永井路子さん / 原田康子さん / 藤沢周平さん / 村上元三先生 / 平岩弓枝さん / いろいろな作家の方と / 挿絵について / 絵描きの結婚 / 絵巻『風と人と』 / 絵巻完成後 / 横浜の綱島に住んで / あとがき / 文庫版あとがき
 挿画 佐多芳郎


佐藤 忠男 (さとうただお)
「長谷川伸論」
 (はせがわしんろん)


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*330頁
*発行 1978年
*カバー・安政三年開板「武蔵国全図」部分(長谷川伸旧蔵)

*カバー文
見捨てられた者の悲哀と意気地を追求して独自の境地を拓いた長谷川伸は、同時代の庶民の有力な代弁者であった。大衆文学の巨匠の作品と人間を論じて、近代日本の民衆の、思想、倫理、教育、文化をとらえ直した注目の長篇作家論。

*解説頁 伊東昌輝


佐藤 忠良 (さとうちゅうりょう)
「つぶれた帽子」
(つぶれたぼうし)


*カバー写真・小林庸浩
 (『季刊銀花』1996年第106号、文化出版局より。作品は佐藤忠良《自画像》)
 カバーデザイン・間村俊一
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*218頁 / 発行 2011年

*カバー文
作ることにあこがれ、二二歳ではじめて粘土を手にしてから、ひたすら土を手にしてきた ―― 上京、新制作派協会旗揚げ、シベリア抑留、憧れのパリでの個展など、決して平坦ではなかった自らの半生を、世界的彫刻家が質実に綴る。図版多数収載、年譜付。

*目次
あこがれ
北海道
 生まれ / 夕張 / 小学校 / 札幌 / 岩瀬さん / スキー / 忙しがり屋 / めばえ会 / 絵画修業
彫刻への道
 上京 / 画塾通い / 転身 / 美校時代 / 集団アトリエ / 展覧会 / 留置場
新制作協会
 旗揚げ / 仲間 / 結婚 / 戦時下
シベリア
 満州へ / 非常ラッパ / 突撃 / 生死の境目 / 逃避行 / シベリア抑留 / シベリア ―― 描く / シベリア ―― 削る
戦後
 復員 / 四年ぶりの粘土 / 船山馨 / 初のアトリエ / モデル / 洋裁学校 / ジャガイモ顔 / スケッチ旅行 / 造形大学教授 / 初の洋行のこと / 「小児科」「帽子」 / 外国の同業者 / パリで個展 / ニューヨーク / 減らず口 / 彫刻公害
解説 酒井忠康
年譜


佐野 裕二 (さのゆうじ)
「自転車の文化史」
(じてんしゃのぶんかし)


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*266頁
*発行 1988年

*カバー文
一見古風に見える自転車は、これからが面白い。一世帯に数台あって、今では駅前公害などといわれているあわれ自転車。その愛すべき日用品を新鮮な目で見直し、その発達の歴史や社会風景を興味深く紹介する。


澤田 ふじ子 (さわだふじこ)
「討たれざるもの」
 (うたれざるもの)

*251頁 / 発行 1985年

*目録文
前藩主の寵愛する女に描き与えた絵をめぐり微禄藩士に襲いかかる非情の罠 ―― 時代の桎梏に生きる男女の哀歓を描く表題作ほか五編。

*解説頁・清原康正


澤田 ふじ子 (さわだふじこ)
「花僧 ― 池坊専応の生涯」
(かそう いけのぼうせんおうのしょうがい)


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*573頁
*発行 1989年
*カバー画・小市美智子

*カバー文
宿業を背負って野に生まれた太郎坊は、修験者明蓮坊に助けられ京に出た。のち、吉野の奥山にいた師を追い、ともに磨崖仏を刻む。六角堂頂法寺の学恵に花僧への志を告げて新参僧となる。やがて立花の真髄をきわめ、法院となった。華道池坊を隆盛に導いた中興の祖専応の生涯を乱世の中に描く歴史長篇。

*解説頁・武蔵野次郎


澤田 ふじ子 (さわだふじこ)
「染織曼荼羅」 
(せんしょくまんだら)


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*240頁 / 発行 1986年
*カバー(表)「白綸子地竹に橘模様絞り縫小袖」/(裏)「御厨子所供御人衣装」/(写真撮影・松尾弘子)

*カバー文
歴史作家の心をゆりうごかした見聞をもとに綴る“小説のタネ”の数々―1枚の小袖や裂が語りかける染織の歴史と数奇なドラマを、考証と奔放な想像力とで裏付け、著者ならではの美の世界を描く。

*目次
機の音 / 蓮糸曼荼羅 / 山城国・延暦12年冬 / 天寿国繍帳 / 祇園祭拾遺 / 憲法染覚譜 / 桃山喜遊 / 名物裂奇譚 / 能面の鉄瓶 / のれん春秋 / 紹益と吉野大夫 / 利休色 / 松林図の背景 / 小袖から帯へ / 紙子控帳 / 紫陽花の町 / 供御の衣装 / 悲衣啾々 / 伊勢型紙幻想 / 出京記 / 前掛けと玉瀾 / 縞の勘十郎 / 紅花と青花 / 油単と舎密染め / 吉凶の籖 / 手仕事の風景 / 絵絣と藤布 / 異端者の哀しみ / 五番町娼妓聞書 / 西陣寸景 / 綴織りと物語を綴る / あとがき /  文庫版のためのあとがき


澤田 ふじ子 (さわだふじこ)
「花篝小説 日本女流画人伝」 (はなかがり)


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*415頁 / 発行 1989年
*カバー・お栄筆「吉原格子先の図」(太田記念美術館蔵)

*カバー文
美人画で名をはせた北斎の娘お栄(応為)、狩野派隆盛の立て役者元信の妻千代女、幕府奥絵師狩野宗家の跡目争いにまきこまれ、かどわかされ牢に閉じこめられた悲運の人屋左女、周囲の反対を押して探幽門人伊兵衛と市井に幸せを求めた清原雪信、祇園茶店の娘から池大雅の妻となった玉蘭など、埋れた女流画人の絵にかけた情熱の生涯を発掘する十二篇。

*目次
悲の枕 狩野屋左女
戊辰の月 池旭女史
夜の鶴 大橋女
軒端の竹 妙性尼
野狐 お栄
熊野の帖 絵式部・定子
祇園茶店の女 池玉蘭
夫婦の鼓 清原雪信
千代のさかえ 狩野千代女
寒椿 土岐願西尼
花篝 三上玉蓮女
あしたの雲 勾当内侍・妙子
 あとがき
 解説 安村敏信


三遊亭圓生 (さんゆうていえんちょう)
「圓生人情噺」〈上中下巻〉 
(えんしょうにんじょうばなし)


*上巻カバー画・宮本佳則
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*上巻300頁・中巻324頁・下巻377頁
*発行 上巻・中巻1980年 下巻1981年
*監修・宇野信夫

*カバー文

上巻 双蝶々
 「ええい、とんだ骨を折らせやがった。もうこうしちゃいられねエ。これからすぐに奥州路へ」
 丁 稚定吉と番頭の権九郎を殺して、盗んだ百両を懐に、奥州石巻へ逃げのびたが……。ふたたび江戸へ戻ってきた長吉を待っていたものは……。
 話芸一筋を貫いて急逝した圓生の円熟した名演の数々、人生のしがらみを描いた涙と笑いを全三巻に集成。本巻には代表噺「双蝶々」のほか「ちきり伊勢屋」「札所の霊験」「梅若礼三郎」「お若伊之助」の全五編を収める。

 中巻 雪の瀬川

 下巻 真景累ケ淵