絶版文庫書誌集成

中公文庫 【く】


久世 光彦 (くぜてるひこ)
「昭和幻燈館」
(しょうわげんとうかん)


*カバー装 ゴメス・コレクション「一〇〇年前のヨーロッパ」
第一巻『一九〇〇年の女神たち』(小学館)より
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*272頁 / 発行 1992年

*カバー文
ひとりだけのスクリーンに映し出す暗い幻影、ひそやかな追憶 ── 。第二次世界大戦末期に少年期を過ごした著者が、記憶の回廊のなかで反芻する建築、映画、文学など、偏愛してやまない、憂いにみちた昭和文化の陰翳を、透徹した美意識で記す。

*目次
赤い靴の秘密
 第一部
犯罪者への夢 同潤会アパート / 胎児の記憶 ポオの悪い夢 / 人攫いの午後 ヴィスコンティの男たち / 侏儒と軍服 制服のエロティシズム / 消えた狂人たち 保名狂乱 / 鵺(ぬえ)のごとく 昭和風雲録 / 真青な夏 小沼丹 / あんたとあたいのブルース 港が見える丘 / 好色な神 エロール・フリン / 鉄路のほとり 久坂葉子
 第二部
蛍火の館 弥生美術館 / 王様の馬 西条八十 / 砂金、掌に掬えば なかにし礼 / 朧絵師の死 上村一夫 / 女の紅差し指 向田邦子 / 彩色写真 一九〇〇年のポストカード / 幻の女 愛しのクリスチーヌ / 道行・花と風 唐獅子牡丹 / 山梔伝説 野溝七生子 / 君よ知るや南の国 昭和のまぼろしたち
 解説 川本二郎


久世 光彦 (くぜてるひこ)
「雛の家」
(ひなのいえ)


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*391頁
*発行 2008年
*カバー画・谷川泰宏「桜火」 / カバーデザイン・中島かほる

*カバー文
ふたつの大戦の狭間、遠く軍靴の響きをききながら、それでも世の中がほんの少し凪いでいたころ。日本橋の老舗人形屋〈津の国屋〉の美しい三姉妹、ゆり子、真琴、菊乃が織りなす、それぞれの狂おしい恋愛を描く。 《解説》筒井ともみ


工藤 美代子 (くどうみよこ)
「香淳皇后と激動の昭和」
(こうじゅんこうごうとげきどうのしょうわ)


*カバーデザイン・中央公論新社デザイン室
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*431頁 / 発行 2006年

*カバー文
明治から平成に至るまでの激動の時代、昭和天皇を支え、国民と苦難を共にし、九十七年にわたる生涯をおくられた香淳皇后。外交文書など膨大な資料を駆使し、数々の興味深いエピソードを交え描いた、皇后ご逝去後初の本格的ノンフィクション。

*目次
一 皇后という運命 / 二 聡明な宮家の長女 / 三 貞明皇后のお妃選び / 四 三人の皇太子妃候補 / 五 皇太子妃への道のり / 六 宮中某重大事件 / 七 渦中の婚約者たち / 八 ご成婚の延期 / 九 ご婚儀 / 十 朝融王の結婚 / 十一 新婚生活 / 十二 大正天皇崩御 / 十三 相次ぐ別れ / 十四 秩父宮皇位継承の動き / 十五 皇太子誕生 / 十六 揺れる教育方針 / 十七 皇太子の養育 / 十八 親子の別れ / 十九 戦争の足音 / 二十 日米開戦へ / 二十一 戦況の悪化 / 二十二 東京大空襲 / 二十三 敗戦前夜の皇室 / 二十四 終戦の決断 / 二十五 マッカーサー来日 / 二十六 天皇・マッカーサー会見 / 二十七 新しい風 / 二十八 ヴァイニング夫人 / 二十九 臣籍降下 / 三十 貞明皇后崩御 / 三十一 皇太子の欧米訪問 / 三十二 お妃選び / 三十三 皇太子ご成婚 / 三十四 生まれながらの皇后 / 主要参考文献 / 解説 保阪正康


工藤 美代子 (くどうみよこ)
「母宮貞明皇后とその時代 三笠宮両殿下が語る思い出」
(ははみやていめいこうごうとそのじだい)


*カバーデザイン・間村俊一
 カバー写真・秩父宮邸ご訪問
 (前列左から勢津子妃殿下、貞明皇后、喜久子妃殿下、後列左から秩父宮、高松宮、三笠宮の各殿下、昭和14年10月22日)
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*312頁 / 発行 2010年

*カバー文
「兄宮昭和天皇は孤独で寂しかった」 ── 大正天皇を支えつつ四人の親王(昭和天皇、秩父宮、高松宮、三笠宮)を育て上げ、皇室の意義を身をもって伝えた貞明皇后。皇后が過ごされた激動の戦中・戦後を、三笠宮崇仁親王、同妃百合子両殿下が回想する、昭和史における貴重な証言。

*目次
はじめに
第一章 澄宮ご誕生から大正天皇崩御まで ── 「三笠宮双子説」の真偽
第二章 開戦前夜、三笠宮と百合子妃の婚儀 ── 陸士から陸大へ
第三章 毅然たる貞明皇后の宮中生活 ── 御親蚕と福祉の日々
第四章 「若杉参謀」南京へ赴任す ── 対華新方針
第五章 死なばもろとも ── 火炎の中の三笠宮邸
第六章 孤独で寂しかった昭和天皇 ── 緊張の終戦前夜
第七章 貞明皇后の生まれ変わり ── 近衞ィ(やす)子さんの「おばば様」
第八章 戦後の混乱と貞明皇后崩御まで ── 勤労奉仕団への心配り
インタヴューを終えて ── 貞明皇后のご遺徳とその継承
 あとがき / 文庫版あとがき / 関連年譜 / 主要参考文献
 解説 北康利


久野 明子 (くのあきこ)
「鹿鳴館の貴婦人 大山捨松 日本初の女子留学生」
(ろくめいかんのきふじんおおやますてまつ)


*カバー画・楊洲周延筆 『貴顕舞踏の略図』
 (渡辺木版美術画舗提供)
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*368頁 / 発行 1993年

*カバー文
「日本の女性で最初にアメリカの大学を卒業したのは誰だったのかしら?」 ── 一アメリカ女性が発した問いから祖父母の足跡を尋ねる著者の旅は始まった。……
会津藩に生まれ十一歳で日本初の女子留学生として渡米、のち陸軍卿大山巌と結婚して「鹿鳴館の名花」と謳われた捨松の情熱の生涯を、百年ぶりに発見されたアリス・ベーコン宛の手紙をもとに辿る。

*目次
捨松の青春時代を求めて / 会津藩の悲劇 / 岩倉使節団と女子留学生 / ベーコン家の娘となって / 一人だち / 失意の日々 / 鹿鳴館に咲いた花 / 小説『不如婦』をめぐって / 女子英学塾の誕生 / 日露戦争 / 晩年 / ドラマチックな生涯 佐伯彰一


久布白 落実 (くぶしろおちみ)
「廃娼ひとすじ」
 
(はいしょうひとすじ)


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*338頁
*発行 1982年
*カバー・朝倉摂

*カバー文
蘇峰・蘆花の姉音羽を母として生れ、大叔母矢島楫子の女子学院に学び、やがてその日本基督教婦人矯風会を中心に、明治から戦後まで、廃娼運動に捧げた八十九年の生涯を語る自伝。


倉橋 由美子 (くらはしゆみこ)
「夢の浮橋」
 (ゆめのうきはし)


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*266頁
*発行 昭和48年
*カバー写真・倉橋三郎

*カバー文
夫婦交換遊戯(スワッピング)の不条理の愛は、優美な輪廻の環となって、虚無の空間に昇華をとげる。雪の嵯峨、秋の花野に、妖かしの世界を秘めて描かれる艶麗の貴種恋愛譚。古代口承文芸の系譜を現代に伝えて、物語文学の精髄に迫る画期的長篇。

*解説頁・佐伯彰一


クララ ホイットニー著・一又民子、高野フミ、岩原明子、小林ひろみ訳
(Clara A.N. Whitney・いちまたたみこ、たかのふみ、いわはらあきこ、こばやしひろみ)
「勝海舟の嫁 クララの明治日記 上下巻」 (かつかいしゅうのよめくららのめいじにっき)




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*上598頁 / 下602頁発行 1996年
*カバーレイアウト 丸山邦彦(CREATIVE MIND)
 上巻カバー写真 左より妹アデレイド、クララ、兄ウイリス(1885年)
 下巻カバー写真 勝海舟の三男・梅太郎と妻クララ 後列左、次女ウイニフレッド 前列左より四女エルサ、三女メーベル、長女アデライン、五女ヒルダ、長男ウオルター(1900年)

*カバー文

明治八年、商法講習所の教師として招かれた父親にしたがい、十四歳のクララは一家とともに来日する。のち勝海舟の三男・梅太郎と国際結婚、一男五女をもうけ、明治三十三年にアメリカへ帰国するまで、大小のノート十七冊に及ぶ日記を遺した。
上巻では来日より明治十一年七月十八日までの日記を収録、純粋な少女の目に映った当時の日本の風俗、勝海舟ら明治の礎を築いた人々の日常を生き生きと描写する。


下巻では明治十一年七月十九日より二十年四月十七日までの日記を収録。勝家の人びとの素顔、活発なキリスト教の布教活動、緒についたばかりの外国語教育の実態など、両親の死をのりこえ日本で力強く生きてゆくクララの目を通して、当時の世相や事件が綴られる。
巻末には、本書に登場し、文明開化期の日本に大きく貢献した外国人教師・宣教師ら百十余名の略歴を紹介、さらに詳細な人名索引を付した。

*下巻巻末頁
文庫版への訳者あとがき
勝家系図
クララと梅太郎についての系図
本書に登場する主な外国人の略歴
人名索引


栗原 雅直 (くりはらまさなお)
「川端康成 精神医学者による作品分析」 
(かわばたやすなり)


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*260頁 / 発行 1986年
*カバー・生井巌

*カバー文
新感覚派の旗手として文壇に登場し、数々の名作を残して突然に逝った川端康成の、晩年の主治医であり、精神医学の権威である著者が、愛惜の思いを深くこめつつ科学者の眼と方法論で作品分析を試みた異色の川端文学論。

*目次
川端文学における白と死
寒風の母 ―― 川端作品の血縁構造
題名からみた川端康成の心理分析
川端文学と幻視
 川端さんの思い出 ―― あとがきにかえて / 文庫のためのあとがき


車谷 弘 (くるまだにひろし)
「銀座の柳」
 (ぎんざのやなぎ)


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*265頁 / 発行 1989年
*カバー・「銀座の柳」(中山晋平新曲楽譜第一編)表紙意匠による

*カバー文
「犀星偽墨」「井伏さんの夏袴」「横光さんの手紙」「文人俳句」「越中夜話」「お吉私記」など、編集者にして俳人、人物描写の名手が文人たちとの交友のあとをたどりつつその素顔を伝える滋味あふれる文壇余話。

*目次
俳句的アルバム
 大洪水 / 犀星偽墨 / 水原捕手 / 九太夫屋敷 / 幾山河 / シャボン玉 / 祝辞 / きぬかつぎ / 銀座の柳

装幀一夕話
 五十八歳の本棚 / 菊池寛の「編集後記」 / 谷崎潤一郎と大江健三郎 / 里見クの『恋ごころ』 / 『菊池寛文学全集』 / 『中村遊廊』出版記念会 / 『父・夏目漱石』と『猫の墓

雑記帳から
 井伏さんの夏袴 / 横光さんの手紙 / 勲一等 / 藤の花 / 小唄 / 越中夜話 / 大福帳 / 猥談 / 歌舞伎のバラック時代 / お吉私記 / 俳句の師 / 文人俳句 / 俳号 / 礼状
 跋 永井龍男


黒板 勝美 (くろいたかつみ)
「義経伝」 (よしつねでん)


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*258頁 / 発行 1991年
*カバー・「鵯越え」(奈良絵本『源平盛衰記』巻三十七より)

*カバー文
 「史書は編者の主義鮮明なるものありて始めて精神あり。伝記は著者の同情深厚あるものありて始めて生命あり」
国史大系を編纂した日本史学の泰斗黒板勝美が、数奇な運命と武士道精神に貫かれた源義経の生涯を、深甚の情をこめて語る。

*目次
巻首五則 / 一 武士道の権化 / 二 源平の関係 / 三 義経の幼時 / 四 均勢の破壊者 / 五 宇治勢多の戦 / 六 一の谷合戦 / 七 屋島合戦 / 八 壇の浦海戦 / 九 頼朝の不興 / 十 義経の都落 / 十一 義経の亡命 / 十二 義経の奥州落 / 十三 義経の最後 / 解説 上横手雅敬


黒岩 重吾 (くろいわじゅうご)
「飛田残月」
 (とびたざんげつ)


*カバー・松田穣
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*251頁 / 発行 1985年

*カバー文
かつて遊廓のあった界隈に、華やかな都会の盛り場に、暗い影を引きずり、ただよい流れゆく娼婦やモデル。淪落の女たちの哀切な姿態と相貌に、人生の深淵を鋭くとらえる力作八篇。

*目次
飛田残月
雑草の宿
事件の夜
雲の鼻
木の芽の翳り
夜の聖像
憎悪の影
霧の顔
 解説 難波利三


桑田 忠親 (くわたただちか)
「本朝茶人伝」 
(ほんちょうちゃじんでん)


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*333頁 / 発行 1980年
*カバー・珠光緞子

*カバー文
東山時代に茶道芸術が創始されて以後、その大成をみた桃山時代、次いで爛熟期の江戸時代を経て幕末に至るあいだの代表的茶人の人となり、茶道事歴、逸話など、豊富な文献を駆使して、日本茶道史を展望する。

*目次
はしがき / 一 東山派以前 / 二 東山派 / 三 奈良派 / 四 堺派 / 五 薮内流 / 六 利休流 / 七 三千家 / 八 織部流 / 九 遠州流 / 十一 宗和流 / 十二 宗旦流 / 十三 石州流 / 十四 江戸千家 / あとがき


桑田 忠親 (くわたただちか)
「蘭方医 桑田立斎の生涯」
(らんぽういくわたりゅうさいのしょうがい)


*カバー・白井晟一
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*247頁 / 発行 昭和60年

*カバー文
種痘の普及に精根を傾け「十万人種痘」を悲願に、遠く北海道まで赴いた江戸の町医者・桑田立斎(くわたりゅうさい)の一生を、幕末の激しい世情を背景に描く感動の伝記。

*目次
第一章 江戸遊学
 家族と生いたち / 江戸遊学の志 / 深川の木場町 / 父のわずらいと死去 / 江戸再遊学とシーボルト事件 / 天保の大飢饉 / 西洋医学に志す
第二章 深川で開業
 坪井誠軒の日智塾に入る / 江戸帰りの若い医者 / 蛮社の獄 / 桑田玄真の養嗣となる / 小児科医院開業 / 生母への老養 / 若い身投げ女を救う / 焼けだされた養父母
第三章 牛痘種痘を始める
 長男皐朔の誕生 / 大患よりようやく回生 / 正妻お綱、次男立也を産む / 人痘種痘より牛痘種痘へ / 牛痘種痘の実施と啓蒙書の著述 / 狂女の入水を救助する
第四章 アイヌ人種痘の幕命
 亡父村松正親の二十三回忌法要 / 『愛育茶譚』の刊行するまで / 長男皐朔を連れて帰郷 / 安政の江戸大地震 / 安政の大風雨と洪水 / アイヌ人種痘の幕命が降る
第五章 東蝦夷地アイヌ種痘
 蝦夷地へ向かって出発 / 江戸幕末ごろの蝦夷地 / 箱館より東蝦夷地廻りを選ぶ / 箱館鎮台奉行所での種痘 / 鷲木より室蘭まで進む / 南部・仙台藩役人の山狩り / 幌泉から十勝への難所 / 十勝会所より根室へ / 根室会所より国後島へ / 野付崎まで迎えでた関谷順之助 / アイヌの種痘六千四百余人に達する
第六章 伝染病との戦い
 虎狼痢流行と正妻お綱の死 / 皐朔と立也を連れて箱根入湯 / 種痘所を西洋医学所と改称 / 麻疹の流行と全家族の罹病 / 愛児と愛孫の難病を治癒
第七章 立斎の終焉
 養父母の死と実母の三十七回忌 / 三人の男子に遺訓をしたためる / 薩英戦争と文久の政変 / 禁門の変と下関事件 / 幕府の長州再征と世直し一揆 / 大政奉還と王政復古の宣言 / 鳥羽・伏見敗戦と官軍江戸入城 / 彰義隊の戦いと伊東玄朴の江戸落ち / 種痘針を握ったままの立斎瞑目 / 種痘の普及と天然痘の絶滅
  あとがき / 文庫版のためのあとがき / 参考書一覧 / 立斎の経路略図