絶版文庫書誌集成

ちくま文庫 【こ】

小板橋 二郎 (こいたばしじろう)
「ふるさとは貧民窟(スラム)なりき」


*カバーデザイン・岡田和子
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*264頁 / 発行 2004年

*カバー文
板橋の貧民窟・岩の坂で育った社会派ルポライターが綴る、壮絶で切ない、怒涛のような少年時代の思い出。木賃宿・長屋の住人。梅毒で鼻が無い“フガフガのおばさん”、正体不明のインテリ「ゴライ博士」、ヒロポン中毒のマアちゃん、初恋のパンパンガール…。強靱で、悲惨で、温かで、そして何より自由だった戦中戦後の「東京スラム」を、深い郷愁を込めて描く。

*目次
 まえがき
第T部
 ハギワラの受難 / わが町・岩の坂 / 赤犬を食った男たち / 記録のなかの岩の坂 / 晩年の宿場町 / 「番場の忠太郎」 / わが母の出自 / 東条のバカヤロー / 竹馬と石福とハギワラ / 天女の舞いおりた葬式 / スラムのプリンス / 新品ならざる人々 / 「精神薄弱、知能低劣のものが多く……」 / みんな必死に働いていた / スラムは移動する / そしてだれもいなくなった / 板橋第三国民学校 / 焼け跡のサイドカー
第U部
 世界鬼ヶ島共同体 / 桜吹雪にしぶきが散って / 雀百まで / はゝそばの 母ぞかなしき / ベン・シャーンの少年 / 悪童時代 / パンパンガール / 闇市での再会 / ヒロポン / 無頼の群れ / “朝鮮人”との遭遇 / 消えたマアちゃん
むすび
巻末対話 山根一眞



河内 祥輔 (こうちしょうすけ)
「頼朝がひらいた中世 鎌倉幕府はこうして誕生した」
(よりともがひらいたちゅうせい)
ちくま学芸文庫


*カバーデザイン・神田昇和
 カバー挿画・『平治物語絵巻 三条殿夜討巻』
 (部分・ボストン美術館蔵)
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*359頁 / 発行 2013年

*カバー文
わずかな手勢で挙兵し、征夷大将軍にまで上り詰めた源頼朝。しかし時を同じくして立ち上がった木曾義仲や、頼朝に反旗を翻した弟義経は、京に入りながらも天下を手にすることはなかった。頼朝にあって彼らになかったものは何か。それは地理的要因にもまして重要な、挙兵の正統性を認めさせる力だった。頼朝は後白河法皇を武力で護りつつ、武家はつねに天皇のためにあるという姿勢を貫くことで、朝廷の信頼を得ていく。それを見て各地の武家勢力も、頼朝に従う道を選んでいった。史料の徹底的な読み込みにより、頼朝と内乱の時代をリアルに描いた、鎌倉幕府成立論の名著。

*目次
中世はじまる
 頼朝勢力の誕生 / 平家クーデター / 以仁事件の顛末 / クーデターの破綻 / 坂東武士の向背 / 挙兵を支えたもの
京攻めの条件
 諸勢力の分立 / 頼朝の対朝廷工作 / 頼朝の対朝廷工作 / 義仲勢力の京攻め / 皇位継承問題の軋轢 / 頼朝・義仲両勢力の対立 / 法住寺殿合戦
東から西へ
 一時的持久戦 / 一一八四年初頭の交渉 / 頼朝勢力の勝利 / 義経挙兵事件の謀略
守護・地頭・兵粮米問題
 対朝廷交渉の開始 / 守護について / 地頭について / 兵粮米について
朝廷と幕府
 義経事件の責任問題 / 貴族社会と頼朝 / 東国に生きる
注 / 補注 / 文庫版あとがき
解説 孤高の「一一八〇年代内乱史」(三田武繁)


小池 滋編 (こいけしげる)
「英国鉄道文学傑作選」
(えいこくてつどうぶんがくけっさくせん)


*カバーデザイン・吉田篤弘+吉田浩美
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*260頁 / 発行 2000年

*カバー文
世界で最初に鉄道という科学技術システムを生み出した国イギリスは、鉄道が一般の生活や思考の中に深く浸透している国であり、また鉄道を芸術において見事に表現した世界最初の国でもある。鉄道と人々との交わりを描いたディケンズ、ロレンス、ハーディー、バーンズ、ワーズワース、エリオットらのエッセイ、小説、詩から選りすぐりの傑作を収録する。

*目次
自伝的エッセイ
汽車ごっこ ダイメント 小池滋・訳
わたしが愛した列車 エリス 小池滋・訳
小説
信号手 ディケンズ 小池滋・訳
乗車券を拝見 D.H.ロレンス 上田和夫・訳
おやすみ、かわいいデイジー ウェイン 小池滋・訳
海峡トンネル バーンズ 中野康司・訳

汽船、高架橋、鉄道 ワーズワース 沢崎順之助・訳
ケンドル・ウィンダミア間鉄道の計画を聞いて ワーズワース 沢崎順之助・訳
山よ、なんじらには誇りがあった…… ワーズワース 沢崎順之助・訳
グレイト・ウェスタン鉄道の夜汽車 ハーディー 沢崎順之助・訳
汽車の窓から スティヴンソン 沢崎順之助・訳
夜汽車行 ブルック 沢崎順之助・訳
地下鉄で オールディントン 沢崎順之助・訳
アドルストロップ トマス 沢崎順之助・訳
リヴァプール・ストリート駅 デイヴィッドソン 沢崎順之助・訳
ユーストン駅で タイナン 沢崎順之助・訳
鉄道猫スキンブルシャンクス T・S・エリオット 池田雅之・訳
夜行郵便列車 オーデン 沢崎順之助・訳
急行列車 スペンダー 安藤一郎・訳
聖霊降臨日の結婚式 ラーキン 沢崎順之助・訳
解説 小池滋


小松 和彦 (こまつかずひこ)
「悪霊論 ― 異界からのメッセージ」 (あくりょうろん)
ちくま学芸文庫


*カバーデザイン・菊地信義
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*302頁 / 発行 1997年

*カバー文
日本人の心の底の底から出現してきた怨霊、物怪、妖怪たち。「闇」の中で彼らは何を語ろうとするのか。悪霊たちの〈モノ語り〉を通して、日本人の心性=共同体を照射するスリリングな論考。

*目次
T 異人の歴史学
 異人殺し伝説の生成 民俗社会の歴史創造
 異人殺し伝説の歴史と意味 歴史社会の民俗創造
U 支配の始源学
 村はちぶをめぐるフォークロア 排除の民俗の事例として
 支配者と御霊信仰 天皇制との関係をめぐって
 天皇制以前あるいは支配者の原像 民俗における「天皇」問題
V 妖怪の伝承学
 雨風吹きしほり、雷鳴りはためき…… 妖怪出現の音
 鬼の太鼓 雷神・龍神・翁のイメージから探る
 鬼を打つ 節分の鬼をめぐって
 江戸の稲荷と狐
W 悪霊の人類学
 悪霊憑きから悪霊物語へ 憑霊信仰の一側面
 悪霊祓いの儀礼、悪霊の物語 憑霊信仰の一断面
あとがき
文庫版あとがき
解説 内田隆三


子安 宣邦 (こやすのぶくに)
「『事件』としての徂徠学」 (じけんとしてのそらいがく)
ちくま学芸文庫


*カバーデザイン・写真 工藤強勝
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*280頁 / 発行 2000年

*カバー文
一度書かれてしまった言説(ディスコース)は、筆者の意図とテクストが乖離し、筆者によって生きられた有限な地平を逃れ出る。本書は、その言説が他の言説と関係を持つことを「事件・出来事」としてとらえ、「徂徠学(そらいがく)」というモダニズムの「大きな物語」の終焉の内で露呈した諸問題の核心を問い、徂徠の言葉から再構成された現代の物語「思想史」の虚構を脱構築する。解体と再構築という絶えざる往還運動からのみ立ち現れる日本思想史の新たなる方法論的視座。

*目次
序論 「事件」としての徂徠学への方法
第一章 「思想史」の虚構
第二章 「事件」としての徂徠学
第三章 「有鬼」と「無鬼」の系譜一
第四章 「有鬼」と「無鬼」の系譜二
第五章 荻生徂徠と津田左右吉の間
第六章 二つの『論語』あるいは二つの「古え」一
第七章 二つの『論語』あるいは二つの「古え」二
第八章 命名と制作 ― 「弁道」という作業
 文庫版あとがき
 解説 宮川康子


小谷野 敦 (こやのあつし)
「新編 八犬伝綺想」
(しんぺんはっけんでんきそう)
ちくま学芸文庫


*カバーデザイン・神田昇和
 カバー図版・三代歌川豊国
 「犬塚信乃」「放竜閣之場」
 (早稲田大学演劇博物館蔵101-0523)
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*332頁 / 発行 2000年

*カバー文
曲亭馬琴の代表作『南総里見八犬伝』。歌舞伎でもおなじみのこの長い物語は、はたしてたんなる「勧善懲悪の封建的冒険活劇」なのか。かろやかに境界をとびこえて、綺想を広げてみよう。たとえば、ユートピア・安房の「大いなる母」のもとへ集まる犬士たちは、ミシシッピを筏で流れ下るハックルベリー・フィンだ。浜路を拒絶する犬塚信乃は、オフィーリアの死に安堵するハムレットだ。 ―― 「水」や「少年」「竜「」などをキーワードに、トウェインやメルヴィルを重ね、イーグルトン、ユングをひきながら、八犬伝に近代の人間像を読み解く、比較文学からの八犬伝論。新編として、「江戸の二重王権」「『八犬伝』の海防思想」の二論文を増補。

*目次
T 八犬伝綺想
 序言
 第一章 竜の宮媛
 第二章 玉なすごとき玉梓
 第三章 こよなき仇 ―― 破滅と旅発ち
 第四章 永遠の少年たち
  (一) 犬塚信乃 / (二) 艶麗なるオフィーリア
 第五章 坂東のラヴレイス ―― 網千左母二郎
 第六章 再生する女たち
 第七章 流離する妖婦 ―― 船虫
 第八章 川と少年の物語
  (一) 逃走する孤舟 / (二) トム・ソーヤー降臨
 第九章 白の系譜学 ―― メルヴィル
 第十章 消滅する竜たち ―― 「第九輯」
 第十一章 母胎への逃走
  (一) 渡河と竜児神 / (二) 祝祭としての戦争
 第十二章 父の帰還
  (一) 、大法師 / (二) 奔馬のごとく
U 江戸の二重王権 ―― 『南総里見八犬伝』再考
 はじめに
 一 神余・金碗氏の意味するもの
 二 外来王と流され王
 三 母の身体と父の排除
V 『八犬伝』の海防思想
 一 (1)『水滸伝』 / (2)外敵 / (3)安房=日本の「置き換え」
 二 (1)「操練」の思想と国民皆兵 / (2)水戦・陸戦
   むすび
 注 / 参考文献 / 文庫版あとがき
 解説 八犬伝を構造主義から読む (森毅)


近藤 ようこ (こんどうようこ)
「美しの首」
 (いつくしのくび)


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*211頁 / 発行 1995年
*カバー装画・近藤 ようこ / カバーデザイン・羽良多平吉

*カバー文
お局様の下女がなんとも美しい男の首を拾った。生き返った首の過去は? 若君のいいなづけと決められた姫君が、猿曳きの少年を好きになった、二人の初恋の行方は? 地獄におちた安寿と契りを結んだ厨子王の骨太い生き方とは? 光源氏の恋人の娘・玉鬘の秘密とは?
逞しい・切ない・妖しい、中世の男女が愛情をもって描かれる、著者の本領。

*目次
美しの首
雨は降るとも
安寿と厨子王
玉鬘
解説 「中世」の翳り  火坂雅志


近藤 ようこ (こんどうようこ)
「見晴らしガ丘にて」
 (みはらしがおかにて)


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*212頁
*発行 1994年

*カバー文
妻を見舞った病室の名札に初恋の人の名前を見つけた老人は……? ポルノ作家と女店主の恋の行方は? エセ文学青年の屈折した恋情とは? 拒食症の姉が思い出した継母への愛情とは? 女占い師のたくましさとは? 男と女の切ない思いや母と娘、女たちのふれあいを鮮やかに、ユーモラスに描く珠玉の11篇。日本漫画家協会賞優秀賞受賞作。
解説 松浦理英子