絶版文庫書誌集成

新潮文庫 【は】

パウル・ベッカー著 (Paul Bekker) 河上徹太郎譯 (かわかみてつたろう)
「西洋音樂史」
 (せいようおんがくし)


*平成5年刊「新潮文庫の復刊」版カバー
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*226頁・旧仮名旧字体 / 発行 昭和30年

*「新潮文庫の復刊」版カバー文
19世紀の「進化論」的見方の音楽史を否定し「メタモルフォーゼ」の歴史としての音楽史を確率、はかなく一瞬に消える去る音に表現された人間の感受性の変遷史を的確かつ豊富な例を用いて解き明かす。音楽を文化の流れ全体の中から捕え、従来の音楽史観を一変させた20世紀の歴史的名著。

*目次
 序
第一章 音樂考察への前提
第二章 形式の發端 ― 希臘人
第三章 グレゴリオ音樂
第四章 多音音樂と新藝術
第五章 和蘭樂派
第六章 多聲音樂と和聲音樂
第七章 器樂的和聲音樂
第八章 イタリイの音樂家・オペラとオラトリオ
第九章 バッハ及びヘンデル (T)
第十章 バッハ及びヘンデル (U)
第十一章 バッハ・ヘンデルの後繼
第十二章 ハイドン
第十三章 グルック
第十四章 モオツァルト
第十五章 ベートーヴェン
第十六章 初期浪漫派 ― ウェーバーとシューベルト
第十七章 演奏會と歌劇とに於ける國民的浪漫主義
第十八章 ワァグナー・ヴェルディ・ビゼー
第十九章 演奏會と歌劇とに於ける後期浪漫派
第二十章 新しい轉換
 解説


パヴロフ著 (イワン・ペトロウィチ・パヴロフ) 林 髞譯 (はやし たかし=木々 高太郎)
「條件反射學(上中下)」
(じょうけんはんしゃがく)

*発行 昭和30年
*カバー画像はありません。

*カバー文
人間の中樞心理を法則的に解り易く二十数項の名篇。學生と若い人に贈る必讀の書。

*目次


第一講
大腦兩半球の働きを研究する原理的方法の發生とその基礎づけ ― 「反射」の概念 ― いろいろの反射 ― 大腦兩半球の一般生理學的特質としての信號活動
第二講
大腦兩半球の働きの客觀的研究の技術的方法 ― 信號刺戟は即ち反射刺戟である ― 無條件反射と條件反射 ― 條件反射を形成する諸條件
第三講
條件刺戟の助けをかりて條件反射を形成すること、並びに自働刺戟の應用 ― 條件刺戟となる動因の種類 ― 條件反射の制止 ― (その一) 外制止
第四講
(その二) 條件反射の内制止 ― 條件反射の消去(内制止のイ)
第五講
(その二) 内制止 ― 條件制止(内制止のロ)
第六講
(その二) 内制止 ― 延滯(内制止のハ)
第七講
大腦兩半球の分析作業と合成作業 ― (イ) 條件刺戟の初期汎化の性質 ― (ロ) 分化制止
第八講
大腦兩半球の分析作業と合成作業 ― (ハ) 分析活動の事例 ― (ニ) 同時複合刺戟の合成と分析 ― (ホ) 繼時複合刺戟の合成と分析
解説(譯者) / 譯者の跋

第九講
大腦兩半球のうちの神經過程の擴延と集中 ― (イ) 同一分析器内の制止過程の擴延と集中(皮膚分析器及び聽分析器)
第十講
大腦實質内の神經過程の擴延と集中 ― (ロ) 制止過程の全半球への擴延及びその集中 ― (ハ) 興奮過程の擴延と集中
第十一講
興奮過程と制止過程との相對誘導 ― (イ) 誘導の正相 ― (ロ) 誘導の負相
第十二講
神經過程の進行現象及びその相對誘導の現象
第十三講
いろいろの機能状態からできたモザイクとしての皮質 ― (イ) 皮質の活動状態のモザイク的配置及びその成立の最も單純な種類 ― (ロ) 個々の皮質點の生理的の役目の變化 ― (ハ) 或る二、三の點の機能状態の安定性 ― 單位の複雜なる力學的系としての皮質
第十四講
條件刺戟の影響による皮質細胞内の制止状態の發展
第十五講
内制止と睡眠 ― その物理化學的根基の同過程なること
第十六講
動物の覺醒状態から完全睡眠への移行相(催眠状態)
第十七講
神經系統の型 ― 機能的侵害の結果としての大腦兩半球の病的状態
第十八講
機能的侵害の結果としての大腦兩半球の病的状態
あとがき(譯者)

第十九講
手術の結果としての大腦兩半球の病的状態 ― (イ) 大腦皮質機能の一般的障害 ― (ロ) 聽覺分析器の機能障害
第二十講
手術侵害の結果としての大腦兩半球の病的状態 ― (ハ) 視覺分析器の機能障害 ― (ニ) 機械的刺戟に對する皮膚分析器の障害 ― (ホ) 大腦兩半球の前頭部剔除による機能障害 ― (ヘ) 温度刺戟に對する皮膚分析器の障害 ― (ト) 梨子状廻轉剔除による障害 ― (チ) 運動分析器の障害
第二十一講
外科的手術侵害による大腦兩半球の病的状態 ― (リ) 實驗動物の行動が正常からそれているのは皮質障害に歸すべきものとの實驗
第二十二講
私どもの研究の一般的特質 ― その問題 ― その困難さ ― そしてその誤謬
第二十三講
動物實驗の成果の人間への應用
パヴロフ小傳 / 文獻 / 索引


萩原 朔太郎 (はぎわらさくたろう)
「詩の原理」 
(しのげんり)




*「新潮文庫の復刊」版カバー
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*247頁 / 発行 昭和29年
*「新潮文庫の復刊」版 254頁 / 発行 平成6年

*カバー文
孤独な魂を抱いて、感覚世界を彷徨する詩人、萩原朔太郎。鋭角的なリリシズム、幻視幻覚のもたらす逆説的美のイメージ ― 本書は日本の近代詩に新時代を画した彼が、十年の苦心琢磨の末、概論、内容論、形式論、結論の四部に分け、詩の本質と詩精神を論究した名著である。「自分の頭脳を往来した種々の疑問の総譜表」と自ら言うように、その詩論は幾多の実作から導かれている。

*目次
序 / 新版の序 / 読者のために
 概論
  詩とは何ぞや
 内容論
  第一章 主観と客観 / 第二章 音楽と美術 / 第三章 浪漫主義と現実主義 / 第四章 抽象観念と具象観念 / 第五章 生活のための芸術・芸術のための芸術 / 第六章 表現と観照 / 第七章 観照に於ける主観と客観 / 第八章 感情の意味と知性の意味 / 第九章 詩の本質 / 第十章 人生に於ける詩の概観 / 第十一章 芸術に於ける詩の概観 / 第十二章 特殊なる日本の文学 / 第十三章 詩人と芸術家 / 第十四章 詩と小説 / 第十五章 詩と民衆
 形式論
  第一章 韻文と散文 / 第二章 詩と非詩との識域 / 第三章 描写と情象 / 第四章 叙事詩と抒情詩 / 第五章 象徴 / 第六章 形式主義と自由主義 / 第七章 情緒と権力感情 / 第八章 浪漫派から高踏派へ / 第九章 象徴派か最近詩派へ / 第十章 詩の於ける主観派と客観派 / 第十一章 詩に於ける逆説精神 / 第十二章 日本詩歌の特色 / 第十三章 日本詩壇の現状
 結論
  島国日本か? 世界日本か? / 『詩の原理』の出版に際して
 解説 伊藤信吉


橋本 治 (はしもとおさむ)
「小林秀雄の恵み」
(こばやしひでおのめぐみ)


*カバー写真・広瀬達郎(新潮社写真部)
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*523頁 / 発行 2011年

*カバー文
37歳の迷える私=橋本治には、小林秀雄の『本居宣長』は過剰と孤立を恐れるなと諭す、じいちゃんの励ましだった。いまもその感動は圧倒的だ、ただ……。小林秀雄賞を受賞した55歳の私は改めて難解な作品の通読へ向かう。そして、真摯な愛情と決意で、小林の文章にねばり強く伴走するうち、ある「恵み」を受け取ったのだった。小林秀雄から現代日本人の宿命を遠望する革新的論考。

*目次
第一章 『本居宣長』の難解
第二章 『本居宣長』再々読
第三章 「語る小林秀雄」と「語られる本居宣長」
第四章 近世という時代 ―― あるいは「ないもの」に関する考察
第五章 じいちゃんと私
第六章 危機の時
第七章 自己回復のプロセス
第八章 日本人の神
第九章 「近世」という現実
第十章 神と仏のいる国
終章 海の見える墓


波多野 完治 (はたのかんじ)
「文章心理学入門」
 (ぶんしょうしんりがくにゅうもん)


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*265頁 / 発行 昭和28年

*カバー文
『文章心理学とは何か』『文章心理学の原理』『現代文章の諸相』『作家の文章心理』『文章の創作心理』『文章の改善と心理学』『日本のレトリック』より成る。新聞、文学作品など種々の文章を例にあげて、日本語の表現価値についての科学的研究の成果と、そこから出てくる日本文改善の意見を提出すると同時に、読者の、自己の文章観と文章技術を向上させてくれる入門書。

*目次
序論 文章心理学とは何か
第一編 文章心理学の原理
 一 文章における具体的と概念的
 二 文章における簡潔と漫延
 三 擬声語の心理
 四 句読点と分ち書き
 五 事物と鉛直な文
 六 顔の描写
 七 小説の文章のむずかしさ
第二編 現代文章の諸相
 一 新聞の文書
 二 新聞記事の文書
 三 ラジオの文書
 四 和歌と俳句
 五 現代詩の心理
第三編 作家の文章心理
 一 文章と性格
 二 谷崎潤一郎氏と志賀直哉氏
 三 芥川龍之介と知性的文章
 四 泉鏡花の文体
 五 薄田泣菫と直喩的文体
 六 文学的表現の心理
 七 近代文体の変遷
第四編 文章の創作心理
 一 インスピレーションの心理
 二 筆の速い作家と遅い作家
 三 児童の性格類型と文章
 四 小さい秘訣
  A  文章上達の心理 / B 起承転結の心理
結論 文章の改善と心理学
 一 文章的表現
 二 名文とは何か
 三 現代の文章論
 四 文章の科学
エピローグ 日本のレトリック
  あとがき


早川 謙之輔 (はやかわけんのすけ)
「木工のはなし」
(もっこうのはなし)


*カバー写真・広瀬達郎
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*317頁 / 発行 2002年

*カバー文
木はしっかりした意志があるものであって、筋の通った注文しか受けつけない ―― 。山に囲まれた裏木曾の小さな村で、日常生活に用いられる家具や道具を一つ一つ手仕事で製作し続けて四十余年。素材としての木に真剣に取り組み、新しい形を与えることで、その魂を蘇らせてきた名匠が、さまざまな木、工具、製作現場、師と仰ぐ人物との出会いを綴った、木の香りが立ち昇るエッセイ集。

*目次
北窓から ―― まえがきにかえて

私にとっての木
 私にとっての木 / 百枚の盆 / 座卓展 / 檜 / 楢 / 欲しい木が変る / 椅子・チェスト / 栗 / 柿厨子 一九八九年正倉院展より / カナダの銘木展 / 松 / 梅 / 栃 / 一位

道具の事
 鋸 / 鉋 / 小刀

木と組む
 材を乾かす / 檜を使う / 家具をつくる / 木と組む

裏木曽に暮らして
 木は刃物で加工する / 裏木曽に暮らして / 山の声 / 荷造り


 黒田辰秋先生 / 腕木 黒田辰秋先生逝く / 日常 白井晟一先生一周忌霊前へ

あとがき
文庫版あとがき

解説 高田宏


林 健太郎 (はやしけんたろう)
「歴史の流れ」 
(れきしのながれ)


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*184頁 / 発行 昭和32年

*カバー文
人類の歴史の流れを真に押し進めてゆくものは何か? 本書は、終戦直後の暗黒時代に書かれ、はげしい世界史の変転の中で、ともすれば運命論に屈従しそうになる人々の心に光明を投じた。原始から現代に至る歴史の流れをよどみなく叙述して、読者がその潮流の中に、未来への目標と、脈々と伝わる自由の伝統とを発見することができる、平明な西洋文明史である。

*目次
一 人類の始め ― 野蛮から文明へ
二 オリエントの文明
三 エーゲ文明、ギリシア人の出現
四 アテネの全盛、ギリシア文化の精粋髄
五 アレクサンダー大王とヘレニズム世界
六 ローマの勃興、階級闘争とその結果
七 ローマ帝国、キリスト教の発生
八 民族大移動、現代諸国家の起源
九 東ローマとサラセン
一〇 封建制度、中世のキリスト教
一一 十字軍、都市の発達
一二 封建制度の動揺 ― 中央集権
一三 ルネサンス
一四 科学的精神、発明と発見
一五 宗教改革
一六 新しい社会、資本主義
一七 近代国家の活動、市民革命
一八 近代の学問、芸術
一九 近代社会の大勢
 あとがき / 重要年表 / 索引


林 望 (はやしのぞむ)
「書藪巡歴」
 (しょそうじゅんれき)


*カバー装幀・望月通陽
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*256頁 / 発行 平成十年

*カバー文
本家イギリス物など、軽妙洒脱なエッセイストとして名高い林望(リンボウ)氏が、書誌学の一貧書生だった頃。ただ志のみを頼りに、書物の藪、学問修行の藪を、いかにして掻き分け進んだか。碩学の恩師との胸にしみる逸話、愛してやまぬ古事・稀覯本たちとの「書縁」ともいうべき邂逅、学問の階段を昇る途上の愉しみ苦しみ ― 切々と飄々と、“本業”への思いをここに纒めた随筆集。親切な、一口語釈付き。

*目次
逃した魚
赤木文庫主人
『わらひ草のさうし』という本
失踪した書物たち
晩年の阿部隆一先生
『絵本艶歌仙(やさかせん)』のこと
『解題叢書』と銀紙
『揺籃』という歌集
二人の師
幸田成友博士の木槌
蜷川式胤の奇妙な依頼
眼光紙背に徹す
江戸時代書賈商魂(ときよがらほんやのたくらみ)
ケンブリッジの乱れ版
転機
大夢大覚
亀井孝先生
書縁結縁
講釈の面白さ
書誌学の未来
書物の藪 ―― あとがきにかえて
 語釈
 解説 藤森照信


林 望 (はやしのぞむ)
「東京珍景録」
 (とうきょうちんけいろく)


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*253頁
*発行 平成11年
*カバー装画・影山徹

*カバー文
転変激しい大都市東京。その膨大な日常風景に埋もれた何か、目を変えてこそ発見できる何かを、著者は「珍景」と呼ぶ。例えば、見慣れた街並に潜む大正や昭和初期建築の遺物、なるほど異観である配水塔、豆腐屋のラッパの音が似合うような刹那 ― 古さを温存するイギリスをよく知る、著者ならではの観察眼で発掘された「珍景」たちを、喜び面白がり愛惜をこめて“記録”したエッセイ&写真。

*解説頁・泉麻人


林 不忘 (はやしふぼう)
「丹下左膳(一) 乾雲坤竜の巻」 (たんげさぜん・けんうんこんりゅうのまき)
「丹下左膳(二) 続乾雲坤竜の巻」 (たんげさぜん・ぞくけんうんこんりゅうのまき)


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*(一)328頁・(二)327頁
*発行 昭和34年
*カバー・鈴木正

*帯文
「姓は丹下、名は左膳」独眼隻腕の特異な風姿、ニヒルな影で一世を風靡した傑作。不世出の鬼才、林不忘の代表的伝奇長編。

*解説頁・大井広介
*全四巻


林 芙美子 (はやしふみこ)
「風琴と魚の町・清貧の書」
(ふうきんとさかなのまち・せいひんのしょ)


*カバー装画・加藤千香子
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*333頁
*発行 2007年

*カバー文
行商人の子として放浪の旅に育ち、私は古里を持たないと断言した著者が、唯一“旅の古里”と懐かしんだ尾道を舞台に描く自伝的処女短編「風琴と魚の町」。“魚は食べたし金は無し”と歌いながら、隣の墓地から拝借したお供え花を飾って楽しむ、極貧の若夫婦の姿がほほえましい「魚の序文」など、代表的な初期短編9編を収録。社会の底辺で明るさを失わずに生きる庶民の姿が逞しい。

*目次
風琴と魚の町 / 耳輪のついた馬 / 魚の序文 / 清貧の書 / 田舎言葉 / 馬の文章 / 牡蠣 / 人生賦 / 山中歌合 / 解説「貧乏を愛した作家」 川本三郎


坂東 玉三郎 / 渡辺 保 / 大倉 舜二 (ばんどうたまさぶろう / わたなべたもつ / おおくらしゅんじ)
「歌舞伎 ― 女形」
 (かぶき−おんながた)


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*190頁 / 発行 昭和61年
*カバー写真・大倉舜二 / カバーデザイン・石黒紀夫

*カバー文
歌舞伎の花である女形 ― 玉三郎は現実の女以上に美しく繊細で優婉な女を演じる。ひとりの男に恋病いをする遊女夕霧。少年恋しさに身を焼く商家の娘お染。色の道を転々とするお富。青年僧に恋する白拍子花子の恋舞。おいらん揚巻の心優しさ。男と死の旅に出る梅川の哀しさ。官能的な桜姫など、恋する女の切なさ残酷さを、大倉舜二の写真と渡辺保の解説で贈る女形玉三郎の魅力。


半村 良 (はんむらりょう)
「小説 浅草案内」
 (しょうせつあさくさあんない)


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*298頁
*発行 1991年
*カバー装画と文中カット・安西水丸

*カバー文
浅草は、見番裏手のマンションを根城に、下駄履き姿で小説の取材に出掛け、灯が点る頃には、馴染みの店で飲み、親爺や常連たちと粋な会話を交わす主人公。そこで知り合った人達の中からドラマが生まれる ― 落ち目になった男に尽くすのが生き甲斐だという三人姉妹の話、なかなか煮え切らない男女の縁を取り結ぶ話など12編を、三社祭や植木市等、浅草の四季を織りまぜて描く人情噺集。

*解説頁・都筑道夫