絶版文庫書誌集成

角川文庫 【お】

大岡 昇平 (おおおかしょうへい)
「中原中也」
 (なかはらちゅうや)


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*570頁
*発行 昭和54年

*カバー・北川健治

*カバー文
 第二次大戦中、一人の兵士が立哨中、熱帯の夕焼を眺めながら口をついて出たのは死んだ友人の詩であった。
 会えば人を不快にし、決って喧嘩となる友、中也。純粋であればあるほどその生活は拙く、底なしの孤独感の中で苦しみながら、三十年という短い生涯をひたすら詩に求めたものは何か。二十数年間、その人と作品に想いをひそめ問いつづけてきた著者の全論考を集大成した決定版評伝。


大島 直行 (おおしまなおゆき)
「月と蛇と縄文人」
(つきとへびとじょうもんじん)
角川ソフィア文庫


*カバー図版・廣戸絵美〈妊婦〉
 国宝「土偶」(縄文のビーナス)
 (茅野市尖石縄文考古館提供)
 カバーデザイン・芹澤泰偉
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*368頁 / 発行 2020年

*カバー文
縄文土器の文様はなぜ「縄」なのか? ストーンサークルはなぜ「円」を描いているのか? 死者はなぜ「穴」に埋められるのか? 旧来の考古学が看過してきた素朴な疑問の数々を読み解くと、縄文人の「こころ」が見えてくる。自身も多くの遺跡の発掘に立ち会った著者が、綿密なフィールドワークをもとに、脳科学・心理学・宗教学・文化人類学など諸学問の知見を組み合わせて論じる。全く新しい縄文論。

*目次
はじめに
第T章 縄文人のものの考え方
 1 縄文の謎はなぜ解けない / 2 ユングとエリアーデ / 3 ネリー・ナウマンの象徴研究 / 4 日本の考古学者の象徴論 / 5 異分野からのアプローチ / 6 読み解きの鍵はシンボリズムとレトリック
第U章 縄文人のものづくり原理
 第一節 縄文土器は本当に鍋か / 第二節 土偶のワキはなぜ甘い / 第三節 石斧の色はなぜ緑なのか / 第四節 貝輪をはめるのはなぜ女性なのか
第V章 縄文人の大地のデザイン原理
 第一節 なぜ死者を穴に埋めるのか / 第二節 竪穴住居になぜ住むのか / 第三節 ストーンサークルはなぜ円いのか / 第四節 環状土籬は土木工事か / 第五節 貝塚はゴミ捨て場なのか / 第六節 水場遺構で何が行なわれたのか / 第七節 火災住居は単なる火事か
第W章 縄文人の神話的世界観
 第一節 縄文人の世界観 / 第二節 月のシンボリズムの行方 / 第三節 縄文文化の本質
 あとがき / 参考資料 / 文庫版へのあとがき / 解説 若松英輔


太田 牛一著 (おおたぎゅういち) / 奥野 高広・岩沢 愿彦校注 (おくのたかひろ・いわさわよしひこ)
「信長公記」
 (しんちょうこうき)


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*565頁 / 発行 昭和44年
*カバー画像・平成4年発行角川日本古典文庫版カバー / カバーデザイン・辰巳四郎

*カバー文
 疾風迅雷の全国統一をなしとげた信長の覇業を、君側にあった太田牛一が、永禄11年の上洛から天正10年の本能寺の変までの15年間「有ルコトヲ除カズ、無キコトヲ添ヘズ」の態度で、体系的にまとめた一代記。
 記録としての信憑性も高く、同時代資料としてもすぐれている。
 伝流諸本との厳密な校合を行なった本文に、詳細な語注と補注を施す。さらに戦国時代人名辞典ともいえる人名索引と地名寺社名、語彙索引も付し、信長及び戦国研究に必須の書としての内容となっている。


太田 水穂・木村 雅子編 (おおたみずほ・きむらまさこ)
「太田水穂歌集」
(おおたみずほかしゅう)
(角川文化振興財団発行)


*装幀・熊谷博人
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*文庫判・301頁 / 発行 2015年

*帯文
白王の牡丹の花の底ひより
 湧きあがりくる潮の音きこゆ
『太田水穂全歌集』の中から1000首余りを厳選抄出。伝統の上に立った新しさとは何なのか。水穂が模索し続けた「日本的象徴」の流れを再認識する一書。

*目次
つゆ草 / 山上 / 続山上 / 雲鳥 / 冬菜 / 鷺・鵜 / 螺鈿 / 流鶯 / 双飛燕 / 老蘇の森 / 註記 / 太田水穂年譜 / 水穂短歌の展開 太田丘 / あとがき 木村雅子 / 初句索引


大塚 英志 (おおつかえいじ)
「『彼女たち』の連合赤軍 サブカルチャーと戦後民主主義」
(かのじょたちのれんごうせきぐん)


*装画・会田誠「美しい旗(戦争画RETURNS)」
 装幀・鈴木成一デザイン室
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*336頁 / 発行 2001年

*カバー文
なぜ永田洋子は獄中で“乙女ちっく”な絵を描いたのか、なぜ森恒夫の顔が「かわいい」とつぶやいた連合赤軍の女性兵士は殺されたのか。サブカルチャーと歴史が否応なく出会ってしまった70年代初頭、連合赤軍山岳ベースで起きた悲劇を『多重人格探偵サイコ』の作者が批評家としてのもう一つの顔で読みほどく。フェミニズムさえ黙殺した連合赤軍の女たちを大胆に論じ、上野千鶴子に衝撃を与えた画期的評論集に重信房子論、連合赤軍小説論を加え、増補版としてついに文庫化!!

*目次
第T部 「彼女たち」の連合赤軍
 1 ─ 永田洋子と消費社会
 2 ─ 永田洋子はいかにして「乙女ちっく」になったのか
 3 ─ 連合赤軍と「母性」
 4 ─ 「彼女たち」のオウム真理教
 5 ─ 森恒夫と〈ぼく〉の失敗
第U部 「彼女たち」の日本国憲法
 1 ─ 「彼女たち」の日本国憲法
 2 ─ 消費社会と吉本隆明の「転向」 ── 七二年の社会変容
 3 ─ 〈かわいい〉の戦後史 ── 永田洋子のいた風景
 4 ─ 〈私語り〉の消費社会史
 5 ─ 出産本と「イグアナの娘」たち ── 彼女たちの「転向」
 6 ─ 「彼女たち」の転向 ── 『成熟と喪失』の後で
終章 〈ぼく〉と国家とねじまき鳥の呪い
補 「物語」に融け込む主体
 主体という幻想 ── 『光の雨』と融解する自他境界
 カメラ目線の重信房子
 撮られること、語られることの愉悦
旧版あとがき / 文庫版あとがき


大塚 英志 (おおつかえいじ)
「定本 物語消費論」
(ていほんものがたりしょうひろん)


*カバーイラスト・西島大介
 カバーデザイン・大塚ギチ
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*342頁 / 発行 2001年

*カバー文
1980年代の終わりに、子供たちは「ビックリマンチョコレート」のシールを集め、「人面犬」などの都市伝説に熱狂した。それは、消費者が商品の作り手が作り出した物語に満足できず、消費者自らの手で物語を作り上げる時代の予兆であった。1989年に於ける「大きな物語」の終焉を出発点に、読者が自分たちが消費する物語を自分たちで捏造する時代の到来を予見した幻の消費社会論。新たに「都市伝説論」を加えて、待望の文庫化!

*目次
T / 物語消費論ノート
 @世界と趣向 ―― 物語の複製と消費
 A物語消費論の基礎とその戦略(『見えない物語』より)
U / 複製される物語
V / 消費される物語
W / 再生する物語
短い終章 / 手塚治虫と物語の終わり
補 / 都市伝説論
 @〈噂〉論 ―― 物語の生成
 A少女まんが家と都市伝説(『仮想現実批評』より)
 B実録・都市伝説 ―― 〈人面犬〉の秘密(『見えない物語』より)
 C都市伝説の死(『戦後民主主義の黄昏』より)
 Dその後の都市伝説(『仮想現実批評』より)
文庫版あとがき
1980年代サブカルチャー年表


大塚 英志×西島 大介 (おおつかえいじ×にしじまだいすけ)
「試作品神話」
(しさくひんしんわ)


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*発行 2009年
*カバーイラスト / 西島大介
 カバーデザイン / 寄藤文平・坂野達也

*紹介文
「ハロー」と僕達の頭上で神様は言った。牛乳、月の砂、神様の卵……少年たちはその夏、世界の秘密を知ってしまう。ひと夏の冒険を詩情豊かに描き出す、世界一かわいい絵本。待望の文庫化!!


大塚 光信校注 (おおつかみつのぶ)
「キリシタン版 エソポ物語 付古活字本伊曾保物語」


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*388頁 / 発行 昭和46年
*カバー画像・平成元年3版「リバイバル・コレクション」版カバー / カバー・デザイン…鈴木一誌

*カバー文
一五九三年、天草で刊行された翻訳文学の先駆。仮名草子の「伊曽保物語」に先んずる、イエズス会宣教師によるイソップ物語の口語訳本で、主に宣教師たちの日本語学習に使われた。国語研究上、極めて重要な文献。

*目次
キリシタン版 エソポ物語
 凡例 / 目録 / 翻字本文 / 補注
古活字本 伊曾保物語
 凡例 / 目録 / 本文
  解説


大西 信行 (おおにしのぶゆき)
「落語無頼語録」
 (らくごぶらいごろく)


*カバー装画・山藤章二
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*320頁 / 発行 昭和51年

*カバー文
 貧乏時代、天井へ釣ばりを仕掛けて捕まえた鼠の首に鈴をつけて放してやり、その鈴の音を聞きながら酒を楽しんだ先代金馬。高座で立往生して話が出来なくなった時のために毎朝客にあやまる口上の稽古をしていて、ついにその日を迎えた文楽。寄席で放送で笑いをふりまく彼らは、実におかしく哀しい人間たちなのである。これは、はやく17歳で正岡容の門をたたいて以来、落語家たちと交わること深く、その世界の裏表を知り尽くした著者が、そうした彼らとの肌を接したつきあいを、ありのままに綴った交流録である。ここには、芸人たちのなまの肉声や生きざまが躍っている。とともに、落語が好きでたまらぬ著者の、それゆえにこそ愛情に満ちた彼らへの怒りも快い。

*目次
おれ志ん生が好き / 志ん生・馬生・志ん朝 / 志ん朝有情 / 小金治はむかし…… / 歌笑・生と死 / 弟子と師匠は……柳家小三治 / じり脚の……金馬 / あっちの会長春風亭柳橋 / 三遊亭円生・その一 / 志ん生が死んだ / 忘れられぬ金馬の居酒屋 / 小南から小南まで / 上方ばなしの人々 / 桂米朝 / 名物・橘家円太郎 / おかしく哀しいかれら / 可楽と夢楽 / はばかり乍ら三遊亭円朝

附 桂文楽の死
 その人たち
 解説 永井啓夫
 さし絵 山藤章二


大原 富枝 (おおはらとみえ)
「婉という女−他一篇」
 (えんというおんな)


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*178頁 / 発行 昭和39年
*カバー・三村淳

*カバー文
 「婉という女」は、野間賞、毎日出版文化賞を受けた作品で、土佐奉行野中兼山の娘、婉の生涯をえがいたものである。学問、政治、人生、男女の愛に注がれたひたむきな眼が感動をよぶ。「日陰の姉妹」は、幼少から40年を幽獄に過した婉の異母姉妹の物語で、二作品に見る女の生きかたは、現代女性への課題とも言えよう。

*目次
婉という女
日陰の姉妹
 註
 あとがき


大宅 壮一 (おおやそういち)
「実録・天皇記」 (じつろくてんのうき)


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*304頁 / 発行 昭和50年
*カバー・KAZOHデザイン事務所 / 今井小夜子

*カバー文
 評論界の鬼才とうたわれた大宅壮一氏が、終戦後はじめて書下ろし、歴史そのもののルポルタージュとして、日本のマスコミ界に画期的な一頁を開いた本書は、その筆法とテーマにおいてまさしく戦後史上の名著というべきであろう。
 「無思想人宣言」に代表される氏の独特な発想は、戦後とかくイデオロギー的分析に陥りがちなこの問題に新しい視点から鮮烈な照明を当て、日本人自身の内に潜む意識形態の象徴として、天皇家の歴史構造を見事に描き出している。
 執筆後25年を経た今日なお、この書の放つ新鮮さに驚嘆の念を禁じえない。

*目次
危かった“血”のリレー / 天皇製造“局”の女子従業員 / 天皇に寄生する男子従業員 / 天皇株を買う人々 / “予想屋”としての勤皇学者 / 勤皇実践派乗り出す / 尊皇攘夷党の台頭 / 間引かれた御子様 / 天皇を利用する公家と武家 / “尊攘党”アジテーター / 膨大な“血”の予備軍 / 日本版“王昭君” / 天皇コンツェルン完勝す /  『実録・天皇記』の実録 草柳大蔵


大宅 壮一 (おおやそういち)
「昭和怪物伝」 
(しょうわかいぶつでん)


*カバー装画・清水崑
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*309頁 / 発行 昭和48年

*カバー文
 怪物とは、いったいどんな人間なのか。悪人なのか、善人なのか、それとも山師なのか。得体の知れない人間像、強烈な個性と不屈のバイタリティの秘密は何か。マスコミ界の怪物といわれる鬼才大宅壮一が、昭和を動かし、昭和を彩った各界の怪物たちを縦横に斬りまくり、その虚像と実像を明らかにする痛快無比の人物評論。没個性を強いられ無気力の現代人にとって、いかに生くべきかを示唆する必読の書といえよう。

*目次
久原房之助 / 三木武吉 / 河野一郎 / 平塚常次郎 / 馬島 | / 藤山愛一郎 / 佐藤和三郎 / 水野成夫 / 阿部真之助 / 下中弥三郎 / 谷口雅春 / 東郷青児 / 勅使河原蒼風 / 岡本太郎 / 森繁久弥 / 石橋湛山 / あとがき / 解説 青地 晨 / 似顔絵 清水崑


大薮 春彦 (おおやぶはるひこ)
「赤い手裏剣」
(あかいしゅりけん)


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*328頁 / 発行 昭和54年
*カバー・辰已四郎

*カバー文
 朝霧たちこめる茅原に姿を現わした一頭の栗毛。馬上に股がるは蓬髪を風になびかせた六尺豊かな色黒の男、その名は伊吹勘之助。腰に差すのは先反りのニ尺六寸の業物・村正だ。名家の出にもかかわらず、無頼放蕩がたたって今は勘当の身の素浪人稼業だ。
 さて本日、伊吹がやってきたのは、売春宿と賭場がひしめきあう関東の町。血で血を洗う二代ヤクザの抗争で無法街と化している。伊吹はここで、一騒動おこして一攫千金を企んだが……。
 妖刀・村正が閃くたびに、血煙とともに屍体の山が築かれる! 明日の命も知らぬ、男一匹風来坊の、痛快時代活劇。

*解説頁・斯波司 / 「孤剣」改題



小川 国夫 (おがわくにお)
「アポロンの島」
 (あぽろんのしま)


*カバー・池田満寿夫
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*230頁 / 発行 昭和46年

*新潮文庫版カバー文
南ヨーロッパの白い光のなか、オートバイでひとり旅をする青年の姿を、徹底した即物的描写でゆるぎなく定着させた『アポロンの島』。日本の暗い土俗的雰囲気のなかで成長してゆく少年の感受性のドラマを、自伝的にあとづけた『動員時代』。ほかに、『エリコへ下る道』『大きな恵み』など、対照的な二つの世界を併存させながら、格調高い文体で、たぐい稀な文学的完成度を示す第一作品集。

*目次
エリコへ下る道
 枯木 / 貝の声 / エリコへ下る道 / 重い疲れ
アポロンの島
 ナフプリオン / 寄港 / スイスにて / シシリー等の人々 / エレウシスの美術館 / アポロンの島
動員時代
 海と鰻 / 箱舟 / 東海のほとり / 雪の日 / お麦 / 夕日と草 / 動員時代
大きな恵み
 海の声 / 遊歩道 / 大きな恵み / ボス / 大きな森
 あとがき
 解説 饗庭孝男


小川 国夫 (おがわくにお)
「生のさ中に」 (せいのさなかに)


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*236頁
*発行 昭和47年
*カバー・池田満寿夫

*講談社文庫版カバー文
先生、世界に夕焼ってものがなくって、或る日急に夕焼が見えたら、みんなよく見るでしょうね。地球が出来てから無くなるまでに、夕焼が一回しかなかったら、その晩には気が狂う人が出るでしょうね。……終末の色に深く彩られた世界を背景に、陰翳に富んだ若く多感な日々の心のゆらめき、血のざわめきを妖しく描く。

*解説頁・月村敏行

小川 国夫 (おがわくにお)
「漂泊視界」 (ひょうはくしかい)


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*290頁
*発行 昭和53年
*カバー・池田満寿夫

*カバー文
 小川国夫の文学は、いまや現代日本文学の一角に特異な光彩を放ちながら揺るぎなく定着している。本書は、『一房の葡萄』に続いて、昭和45年末から47年夏頃に書かれた著者の第二エッセイ集である。
 その内容は、「小説のかたわら」「遊弋」「同時代」の三つの章からなり、それぞれの章において、芸術・文芸・自作、身辺・事象・回想、近代・現代文学の作品評等が、収められている。
 〈光と闇の作家〉小川国夫の小説世界の内部と背景へ、読者を親しく誘いながら、生への深い畏れと喜びを、簡潔な文体で綴った珠玉の随筆集。

*解説頁・上総英郎


小川 国夫 (おがわくにお)
「悠蔵が残したこと」 (ゆうぞうがのこしたこと)


*カバー・池田満寿夫
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*256頁 / 発行 昭和48年

*カバー文
 ここに収められた九つの短篇は、作者自身のひそかな配慮によって、三つの作品群に分けられていることに、私たちは気づかされる。その第一は、「悠蔵が残したこと」「影の部分」「違約」の作品群で、いずれもが、何か暗い、罪の匂いがする生または性の衝動に突き動かされて生きようとする女性を主人公としている。第二は、老聾の画家ゴヤに触発されて想を得た「サラゴサ」「大亀のいた海岸」及び「アフリカン・ナイト」の三作品群で、かつて氏が、憂愁の心を抱いてヨーロッパの各地をさまよったときの体験を基調として発想されたものである。そして最後に置かれた三篇の作品群は、氏が深く愛着する河口や港町に定着して生活している、郷里の隣人たちを主人公とするものである。 ―― 森川達也・本書解説より

*目次
悠蔵が残したこと / 影の部分 / 違約 / サラゴサ / 大亀のいた海岸 / アフリカン・ナイト / 港にて / 河口の南 / 入江の家族 / 後記に代えて / 文庫版あとがき / 解説 森川達也


小川 国夫 (おがわくにお)
「リラの頃、カサブランカへ」


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*174頁
*発行 昭和51年
*カバー装画・挿画 野見山暁治

*カバー文
 灰色のパリから、紺碧の空と明るい光、リラの咲く白い街へ ― 。中国人青年リーは、セネガルから来た友人の恋人、魅力的なフランス娘を知り、偶然の出来事から殺してしまう。パリを逃れ、南仏、フィアンセの待つスペイン、そして北アフリカへ、彼はオートバイを駆って旅立つ……。
 悔恨とはかない希望、エキゾチシズムとスピード、スリル感。名著『アポロンの島』の直前に執筆された著者最初期の、青春の情感と感傷に彩られた記念碑的作品集。
 表題作の他、「ファンタジア」「テサロニキに病んで」の二篇を収録。

*解説頁・牧野留美子


尾崎 健一 (おざきけんいち)
「尾崎豊 少年時代」
(おざきゆたかしょうねんじだい)


*カバー・田島照久
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*213頁 / 発行 1994年

*カバー文
ロックアーチスト・尾崎豊として散ったわが家の次男坊“ゆたちゃん”。好奇心旺盛でやんちゃな“ゆたちゃん”はお話をせがんだり、喧嘩をしたりくるくるといそがしい。でもとっても優しくて、ちょっと泣きべそ……。数々の幼い日のエピソード、そして伝説となった名曲の原風景を、自らの日記とモノローグで綴った、わが子へ捧げる鎮魂の回想録。待望の文庫化。

*目次
 序
日記と回想
《創作》ゆたちゃんと山鳩さん
尾崎豊新生の日に贈る言葉
一冊の古い絵本 ── 豊の幼い感性の芽生え
アーチストの道を歩みはじめた豊への提言
《ドキュメンタリー風の創作》長坂トンネル
 後記


尾崎 秀樹 (おざきほっき)
「生きているユダ 
ゾルゲ事件 ― その戦後への証言」 (いきているゆだ)


*カバー・笠原俊介
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*333頁 / 発行 昭和51年

*カバー文
 太平洋戦争開始後間もない1942年(昭和17年)5月の朝、新聞は、リヒアルト・ゾルゲ、尾崎秀実らのスパイ事件を大見出しで報じた。
 〈非国民!〉〈売国奴!〉、 ― 家族の上に浴びせられるつぶての様な非難の中で、秀実の異母弟である著者は、その手記、論文を読み進め、世界と祖国の平和を真摯に希求した兄の心と、そのための行動に目を開かれてゆく。
 そして戦後、生活の激しい窮乏と病苦のうちに、著者の青春は、「ゾルゲ事件」の真相究明に費やされるが、次第に明らかになるのは、事件発覚の端緒となった、一人のユダの裏切りと、戦後もなお無気味に働き続ける、その黒い魔手であった。……
 現代史の謎に迫り、未来に警告する、感動のドキュメント。

*目次
 序
 『生きているユダ』について 埴谷雄高
きざまれた過去
昏い太陽
疑惑の影
描かれた波紋
奇怪な日々
父の死
心の底から憎むことを
それから
 付・革命 ― 伝説
 解説 五木寛之


尾崎 豊 (おざきゆたか)
「白紙の散乱」
(はくしのさんらん)


*カバー・田島照久
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*135頁
*発行 1993年

*カバー文
錆びたガードレール、アスファルトの上の枯れ葉、電線で羽根を休める鳥達、公園のベンチ……。またたく間に姿を変えてゆく街角の風景の一瞬の輝きを、悲しいまでのやさしさと研ぎ澄まされた瞳がみつめる。自らの手による写真と散文詩で、痛切な祈りを路上に刻んだ、遺作詩集。


長田 渚左 (おさだなぎさ)
「欲望という名の女優 太地喜和子」
(よくぼうというなのじょゆう たいちきわこ)


*カバーデザイン・安彦勝博
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*280頁 / 発行 1997年

*カバー文
九二年十月十三日、伊東市での舞台公演後、車ごと海へ落ち、四十八歳の若さで他界した女優太地喜和子。女優として演技にこだわるだけでなく、女として妖艶な愛の芳香をふりまき、男を虜にした“純粋すぎる性”とはいかなるものであったのか。三国連太郎、中村勘九郎、尾上菊五郎が、初めて語った感動の秘話を収録し、太地喜和子に妹のように可愛がられた著者が、懸命に生きぬいた女・女優の生涯を克明に、敬愛をこめて綴った慟哭のノンフィクション。

*目次
プロローグ 残像
1 虚偽と涙
2 小悪魔の飢餓
3 三国連太郎の記憶 ― 蛇
4 70年代の激情
5 役者の自我
6 中村勘九郎と蜜月
7 秋元松代のストレスと生命
8 焦燥と限界
エピローグ 最後の嘘
 出演記録 他
 あとがき
 記念碑 秋元松代


長田 弘 (おさだひろし)
「ねこに未来はない」
 (ねこにみらいはない)


*カバー・長新太
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*198頁 / 発行 昭和50年

*カバー文
 かわいいねこたちが、ある日突然、姿を消した。どこへ? なぜ? きびしい現実のなかで未来を奪われたねこたちに寄せた、さわやかなユーモアとあふれるウィット。
 ねこ好きの奥さんとぼく、2人のあいだにうずくまり、あくびをし、歩きまわり、そして去っていったねこ、ねこ……。ねこをめぐる人間の生の歓び、心の苦さを曇りのない眼でとらえて、話題をよんだ物語エッセー。

*目次
ねこに未来はない
ねこ踏んじゃった
わが友マーマレード・ジム
 解説 なだいなだ
 さし絵 長新太


長部 日出雄 (おさべひでお)
「津軽空想旅行」 (つがるくうそうりょこう)


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*258頁
*発行 昭和50年
*カバー・村上豊

*カバー文
 死者に近い土地=津軽に生まれ育った著者が、津軽民謡、津軽三味線、あすなろの木、イタコ等、津軽の風土とそこに生活している人間のかかわりあいをやさしいユーモアでとらえた初の随筆集。
 名もなく貧しいままに、生まれ死んでいく無告の民衆の〈歴史〉は、画一化の波に洗われている現代日本が失ったもの、大切にしなくてはいけないものとは何かを考えさせてくれる。

*解説頁・井家上隆幸


大佛 次郎 (おさらぎじろう)
「宗方姉妹」 
(むなかたしまい)


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*253頁 / 発行 1952年
*1973年NHKドラマ化カバー

*カバー文
 終戦後満洲から内地に引揚げて来た宗方家の、美しい二人の姉妹、――つつましく、古風な姉節子と活發な妹満里子。
 節子は、パージを受けた父親と仕事に情熱を失った夫に代って生活を支えるため、酒場を開くが、その前に姿を現した昔の恋人宏。節子の心は、微妙にゆらいで。……大佛次郎の名作。

澤瀉 久敬 (おもだかひさゆき)
「増補『自分で考える』ということ」
(じぶんでかんがえるということ)


*カバー絵・著者
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*186頁 / 発行 昭和56年

*カバー文
―― 戦後の日本に見られる過度な行き過ぎに、理性の喪失がある。理性への不信は、わが国のみにみられる現象ではなく、世界の思想界の顕著な動向である、が、思想界の先端にある非合理主義と日本人の理性の欠如は、理性の彫琢の度合に明らかな差違がある。「合理主義・非合理主義」を論ずる前に、“理性の確立”こそ、日本人に課せられた急務である ――
 著者のこの提言は、現代日本の根源的な病巣を抉ってあまりある。平易な語り口に終始しながら、なお人々の心をつかんではなさぬ本書は、現代が生んだ数少ない名著として不朽の紙価を高めている。

*目次
 まえおき / 考える / 理性の窓をあけよう / 思想の英雄・デカルト / ほんとうの文明 / 個性というもの / 読書について / あとがき


折口 信夫 (おりぐちしのぶ)
「世々の歌びと」
 (よよのうたびと)


*カバーデザイン
 杉浦康平海保透鈴木一誌
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*193頁 / 発行 昭和27年

*カバー文
世々の歌びと
国文学者であり、民俗学者であり、歌人であり、詩人であり、
また小説・戯曲作家であった折口信夫が、生涯を通して
もっとも強い愛着を懐きつづけたものは、ほかならぬ短歌であった。
それだけに、短歌史である本書には、
折口信夫独自の短歌観・短歌史観が随所に展開されている。
とりわけ、和歌発生論、本質論、宿命論、及び短歌史を
作者の階層によってみる視点など、大きな特色をなしている。
本書は、書名から想像されるような歌人列伝ではない。
前の二篇は、発生期から近代までの通史であり、
後の三篇は、明治の短歌革新に焦点をしぼった考察である。
慶大教授西村亨氏による解説五〇枚は、他に類を見ない
力作であり、初心者にとっても好個の手引となろう。

*目次
女流短歌史 / 歌の話 / 正岡子規短歌抄 / 与謝野寛作歌抄 / 追い書きにかえて ― 明治の新派和歌 / 解説・折口信夫と短歌史 西村亨


オルテガ・イ・ガセット著  神吉 敬三訳 (かんきけいぞう)
「大衆の反逆」
 (たいしゅうのはんぎゃく)


*カバー画像・平成元年刊「リバイバル・コレクション」版 / カバー・デザイン 鈴木一誌
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*252頁 / 発行 昭和42年

*カバー文
“大衆”という、最も把えにくい命題を、理論的に体系づけた名著。彼は独自の「生の理論」をもって、大衆のエネルギーを賞賛しつつも、文明を、自ら熟知操作できなくなっている野蛮人として鋭く批判する。

*目次
第一部 大衆の反逆
 一 充満の事実
 二 歴史的水準の向上
 三 時代の高さ
 四 生の増大
 五 一つの統計的事実
 六 大衆人の解剖の第一段階
 七 高貴な生と凡欲な生―あるいは、努力と怠惰
 八 大衆はなぜすべてのことに干渉するのか、しかも彼らはなぜ暴力的にのみ干渉するのか
 九 原始性と技術
 一〇 原始性と歴史
 一一 「慢心しきったお坊ちゃん」の時代
 一二 「分科主義」の野蛮性
 一三 最大の危険物=国家
第二部 世界を支配しているのは誰か
 一四 世界を支配しているのは誰か
 一五 真の問題は何か
 原注 / 解説 訳者 / あとがき


小和田 哲男 (おわだてつお)
「甲陽軍鑑入門 ― 武田軍団強さの秘密」
(こうようぐんかんにゅうもん)


*カバーデザイン・芦澤泰偉
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*286頁 / 発行 2006年

*カバー文
「風林火山」の旗の下、戦国時代最強の騎馬軍団として恐れられた武田軍団。その兵法をまとめた『甲陽軍鑑』は、軍略家・武田信玄の手の内を明かしている。『甲陽軍鑑』は、江戸初期の成立以来、甲州流兵法の基本文献として重要視され、講談・小説に語られる信玄のイメージを決定付けたほどよく読まれた。戦国史研究の第一人者が、その面白さを現代人向けに紹介し、軍略家・信玄の魅力を十二分に解き明かした入門書。

*目次
 はじめに ── 『甲陽軍鑑』の魅力
第一章 『甲陽軍鑑』は史料としてどこまで使えるか
第二章 『甲陽軍鑑』の構成と内容
第三章 『甲陽軍鑑』末書の概要
第四章 史実とのくいちがいがあるのはなぜか
第五章 山本勘助の実像と『甲陽軍鑑』
第六章 『甲陽軍鑑』に描かれた信玄の合戦
第七章 『甲陽軍鑑』から信玄の名言を拾う
第八章 近世の兵学と『甲陽軍鑑』
 おわりに